186~ドロテア物語10・「紫のドクロ」
「庭にもおらぬのかぁ、、、」
ニーナ・ドロテアの父親。暗くなった城の庭。その周りを一周した。
初めてここを訪れたエスキモー3人も、逸れぬようにとその後をついて周った。
「もう行く宛がない。あれだけ大声で叫んだんだ。いれば返事をするはずだが」
「少し休みましょう」
エスキモーのピケルがナナカマドの下を指差した。
ふんわりと溜まった落ちた葉。4人で腰を下ろすには充分過ぎるクッション。
彼らはそこに尻を落とした。
ピケルが頭の後ろで手を組むと、葉の上に仰向けで寝転んだ。
紫の満天の星空。降って来るようだった。
「んん?」
寝転んだそこ。頭の上から背中、つま先まで柔らかい塊を感じとった。
「なにか!この下に!」
ピケルはすぐに立ち上がると、風に積まれていた葉を両手で掻き掃った。
パサパサパサ!
「うわぁ~!うあぁ~ッ! 出たぁ~!」
「これはぁ!! お爺様ぁ!」
叫んだニーナの父親。ピケルと一緒に葉を除けると、その動かぬお爺様の体を抱き起こした。
「お爺様!お爺様!」
起こした首は何も言わずコクリと垂れた。
ピケルがお爺様の鼻の下に人差し指を当てた。
「、、、息をしていない」
「生きていないのか? 心の臓は?」
ピケルが鼻の下に当てていた手を、お爺様の胸の真ん中に当てた。
「ピクリともいわん」
「悪いが葉をどかしてもらえぬか?」
「ん?なぜ?」
「いいから。いいから」
そう言うとニーナの父親はお爺様のズボンや上着のポケットに手を入れた。
(どこにあるんだ? ない、ない。どこにやった?)
「旦那さま。何をしているのです? なにかお探しでも?」
掃い除けられた葉。暗い紺色の地面に掌を当てるとその上を摩り出した。
「なにか? なにを? お爺様は見つかったのですよ」
ニーナの父はそれには答えず、今度は少し土を穿った。
コツン!
(あった!)
それは紫の月明かりに、オーロラ色に光った。
(丸い!これだ!サファイヤだ!)
ニーナの父親は彼らに背を向けて座り込むと、その周りの土を取り除き出した。
エスキモーの3人は立ったまま、その姿を見ていた。
(嘘だろぅ?! デカすぎる!)
犬掻きのようにバタバタ穿り出したニーナの父。
出て来たのは人の頭ほどの玉。
「うああ!うああ!こ、こ、これはぁ~!シャレコウベではないかぁ~!」
その白いドクロ。土から突き出ていた脳天。
夜の月明かりに照らされ、紫のオーロラ色に光っていた。
「誰のものだ?! まさかっ!まさかっ!」
お爺様の体を横に避けると、皆一斉に土を掘り出した。
砂になった白い骨。薬の臭い。
その埃が一緒になって彼らの頭上に舞い上がった。
芝土の下から出て来たのはプールポワンの錆びたボタン。
重ね革の貴族のブーツ。
兵や騎士の物ではない事は明らか。
「まさか?イブレートさま?!」
お爺様は取り除いた土と葉に、その横でまた埋められていた。
※前話185話に挿絵を掲載致しました。
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