183~ヘルゲとドロテア・秘密の話
「焼けちまったよ。とうとう見つからないうちに。地下まで燃えちまってるとは」
「良かったじゃないか。不幸中の幸い。ヨーセスの店の宝は盗まれた後だ。 しかしな。それよりもだ!わしは知らなかった! あの店の下にあんな地下の回廊があることなど!」
「そうさ、お前と結婚したのもあの地下を欲しかったからさ。ヘルゲ男爵の嫁にでもなれば容易く手に入ると思ったからさっ」
「ううう。ドロテアぁ~何という事を言うぅぅ」
「もう燃えちまったから話してやる、、、あそこは元々異教徒たちの教会」
「なんだ? わしは生まれた時からここに住んでおるが聞いた事もない」
「黒ミサ。もう随分と昔。あそこはね、イブレートの生まれた場所」
「は?それも聞いたことがない」
「マウリッツの城が襲われた後、イブレートの遺体はこの教会の下の棺桶に入れられた、、、というのが知られていない噂」
「バカ!知られていないのは噂といわん! それにわしはイブレートなど興味がないわ」
「けどね。それは作られた噂」
「また噂って言った、、、」
「あそこに納められたのは」
「は?誰?」
「イブレートではなく、、、、私のお爺様」
「あ~?なんでマウリッツのお前の家の爺さんがあそこにいるんだよ?」
「私が子供の頃にね。海岸に流されてきた。エスキモーという民」
「ん?なんの話?」
「うちのお爺様が、私の見つけたサヒーヤの指輪を持って城に出かけたのさ」
「サファイアじゃないのかい?」
「そう、それだ。で、夜になっても戻って来ないお爺様を、遭難ついでに私の父上と捜しに行ったのさ」
「見つかった?」
「いや、ナナカマドの下。落ち葉の下に埋もれて死んでいた」
「あれま」
「しかし、お爺様の遺体をどかすと更にその下にも。浅く掘られた土からシャレコウベが出てきたのさ」
「イブレートの頭蓋骨?ってやつかい?」
「そうだ。しかし奴らエスキモーは何かに気づいた」
「なにが?なぜ?」
「私にもわからない。話を盗み聞きしたのは可愛らしい10の頃」
「可愛らしいはいらんな」
「常々お爺様は言っていた。亡くなったらバレンツの海に葬ってくれと。遭難はしたが丁度舟に乗ってやって来たそのエスキモー達が協力をしてくれたのさ。父上はまるで神が来てくれたようだと喜んだ。これも何かの運命だと。が!しかしだ! お爺様の遺体と一緒にイブレートのものらしきシャレコウベもマウリッツの民のものだと言い張って一緒に持ち帰った。生まれ故郷のこの街の地下教会に埋葬すると」
「なんだ。丸く治まったではないか?」
「ここからが盗み聞き。どうやらイブレートの遺体はイブレートではない様なのだ」
「またわけのわからん」
「なにかを見つけ、それが奴らの祖先、バルウという騎士の骨だと。その骨は奴らの地で手厚く葬られ、うちのお爺様は、まるでイッカクを切り裂くように骨だけにされ、この街に運ばれたのさ。北の皇帝イブレートの骨として」
「お前、なぜそれを?」
「奴らは、波が穏やかになるまで数日家で寝泊まりしていきおった。その間にひそひそ話を聞いたのさ。そこにいた若い娘の発案だった」
※前話・182~「ドロテア物語9・吐き気」に
アグニアの若かりし頃をイメージした挿絵を掲載。美人さんになってしまいました。(笑)




