181~ドロテア物語8・「この有り様」
「旦那さまは困り果てた私達に即座に手を差し伸べた。策略でも謀るお時間などなかったでありましょう?」
「本当について来るのか?」
「もちろんですとも」
「どこからかラーシュの兵が出て来ても知らぬぞ」
「かまいません。私達は御恩返し。殺されても、あなた様を信じた心は消えません」
「、、、お前ら。凄いな、、、」
「当然のことではないでしょうか?」
「ま、お爺様がすぐに見つかれば、街までも赴く事はないだろうからな」
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「お爺様ッ~!」
「お爺様っ~!」
「居たらお声を~! お返事を~!」
「とうとうここまで来てしまった」
「ほう。これがマウリッツの街?」
「なっ、どう見てももぬけの殻であろ? 灯り一つ点いてはいない」
「店もガラ空きでカラ風が吹き抜けている」
「そう。ラーシュなどもういないのだ」
「そう言えば、この通りの真正面に日が沈む時が夏至だと聞いたことがございます」
「夏至?」
「太陽が出ている時間と暗闇の時が同じになる日でありますよ。こんな辺ぴな北の国。それを計るのは大事なことです。作物を作るには不可欠。 で、その前日にはサンクトハンズというお祭りがこの通りで開かれていたようです」
「サンクトハンズ?」
「はい。色々な薬草を冠にして頭に被り、歌や踊りを披露するのです」
「お前、詳しいな。名は何という?」
「あ、申し遅れました。この船団の長をしておりますピケルという者です」
「では、ピケル殿。今の話は誰から?」
「もうこの街を見てしまった以上、何もかもお話いたしましょう」
「おう、教えてくれ。聞きたい」
「実はあなた様達ラーシュの一族から逃げたマウリッツの民はてんでバラバラ。そのうちの大半の者が、この先の更に北の西。マーゲロイの島に移り住んだのです」
「今も?いる?」
「おられます。実は私達が彼らの食源。未だにこうして舟で行き来をして物資を運んでおるのです」
「見殺しにされたのはラーシュの方というわけか、、、」
「その中に」
「中に?」
「イブレート様の末裔が未だ健在しておられるのです」
「ピケル殿。俺にそんなことを言ってしまっていいのかい?」
「言ったところで、この街のザマです」
「様、、、?」
「イブレート・ヨーセス。そのお方です」
「イブレート・ヨーセス?」
「はい。マーゲロイ島に逃れてからは既に5代目。3歳になる6代目のお子がいずれ6世に」
「長いな。長い歴史だ」
「あなた様達ドロテア一家が浜に住んでおられたせいで、未だラーシュ一族がマウリッツを占拠しておると思い込み寄り付かず、、、しかしこのザマ、この有り様でありました」
「ザマザマいうな!俺もラーシュの端くれだ!」
「あ、これはこれはご無礼を。あまりにヒドイいザマでしたので」
「で、そのイブレート・ヨーセス?様にその祭りの話を?」
「はい。代々の言い伝えとしてお聞きいたしました」
「ねえ。そんなことよりも、ドロテアのお爺様を捜しましょう! もう真っ暗でありますよ!」
若い娘。アグニアが口を挟んだ。
濃紺の空には、もう星が降っていた。
黄色がこの小説の舞台。ノルウエー。
取り急ぎの手書きの地図でごめんなさい
※前話180話~ドロテア物語7・「とにかく城にゆく」に挿絵を掲載致しました。
宜しかったら是非ご覧ください。
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