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18/1501

18~用意された地下の小部屋

「大丈夫だ。安心しな。俺達はここの男爵夫人のもとで働いている者だ」

「今からな。別の場所に移る」

 『えッ。でしたらなぜその様な格好で? しかもこんな夜更けに』


「ん~、だからそのぅ、ヘルゲ男爵の手下ではなくぅ、夫人の手下というかぁ、、」

「つまりな。今ここにドロテア夫人はいないのだ。ちょいとばかり旅に出ていてな」

 『ん?』


「ここのヘルゲという男爵はかなりのおスケベ」

 『おスケベ?』


「そうだ。いつお前を襲いに来るかわからんのだ」

 『お~怖いッ』

「だから、男爵殿に内緒でお前を連れ出してくれと、ドロテアさまのお言いつけでな」



「鎖を外すから、少し黙っててくれ。」

そう言うとキルケはアデリーヌの鎖に繋げられた白い素足を持ち上げた。

そのかかとを自分の膝の上に乗せると、鉄の足枷あしかせの鍵穴をクルと回した。

「よし、外れた。急ごう!」


 『あ、わたしはどこに連れて行かれるのです?』

「いいから黙ってついて来い。悪いようにはしない。庭の先にロバがつけてある。それにまたがれ。お前のことを考えて背の低いロバにした」


キルケは、アデリーヌの手首を握ると、そーと小屋の扉を開けた。

「イワン。ヘルゲは?」

「大丈夫だよ。まだ部屋の中だと思う。なんか皿を洗っている音がする」

「あの料理番の婆さん、皿洗いまで残してきたのか?」

「時間稼ぎにもう一仕事やらせてるってわけだ。へへッ」


 キルケはもう一度ゆっくりと小屋の鍵を締めると、アデリーヌの手を引っ張って庭の芝生を駆け抜けた。

音を立てぬ様にか、男たち4人ともが裸足であった。


「うまくいったかい?」

ロバの番をしていた男が聞いた

「ああ。この女だ」

「ではさあ早く!乗れ!」


 5人の男はアデリーヌが乗ったロバの周りを取り囲み、一目散にドロテア通りに向かった。

石畳の店はもうほとんどが閉まっていて、いくつかの露店居酒屋だけがランプの下、ワイワイと賑わっていた。店は明るく、暗くなった通りを振り返る者はいなかった。




「イワン。今度はヨーセスの店の鍵だ」

「ホイきた!」


ロバを真ん中に5人の男たちは、ヨーセスの店の前に立った。


「イワン。開けて!」


ガチャリ バタッ

「よし!」

キルケは一通り辺りを見渡し、見ている者がいないのを確認すると泥の路地裏。人目につかぬようヘルゲ通り側でアデリーヌをロバから下ろした。

「ここだ。入るぞ!」


 暗い店内。イワンともう一人の男がランプに火を点けると、きらびやかな宝飾類が目に飛び込んできた。

昼間の店内とは全く違う別世界が広がった。


「突き当りに地下に降りる階段がある」


5人の男はアデリーヌの手を引きながら、ランプを頼りに階下に下りた。

降りた先には扉はなく、狭い小部屋が一つあるだけだった。


そこに置いてある厚い板で作られたテーブルの上。

火を照らすと、

 畳まれた青いシルクのドレス。

 その右隣には一足の黒い牛革のブーツ

 左隣には数々の装飾品


キルケは言った。

「これに着がえろ」

 『えッ、私がこれを?』


「ああ、これはこの店の男。ヨーセスからの差し入れだ。ドロテアは知らぬ」


ーーーーーーー


「じゃ、イワン。明日の朝。ヘルゲの家の前でな。」

「わかったよ。キルケ」


そう言うとキルケにここの見張りを頼み、4人は店をあとにした。


イワンは出がけに店の指輪を一掴つかみポケットの奥に捻じ込んだ。

 




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― 新着の感想 ―
[良い点] どんな企みの元、この逃走がなされているかまだ想像のつかないのが良いですね。わけの分からぬまま連れてこられたアデリーヌとまるで説明せず、自分たちの仕事にだけ関心をもっている男たちの対比が見事…
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