173~マウリッツ攻防記・12「イブレートの力」
マウリッツを占拠したラーシュ家一族。
しかしそれは数年と保たなかった。
すぐに極寒の季節を迎えたマウリッツ。
運悪くその年、暖流の流れが変わったのかバレンツの東海岸は凍りついた。
「食い物が無いとはどういうことだ!! いくらこの地が氷で覆われようと、ヘラジカや熊はおらんのか! キツネは! カモメは!」
「それが全く、、、なにか獣が寄りつかないような臭いが絶えずしておりまして」
「どういう事だ。やつらマウリッツはどうやって暮らしていたのだ? 薪にする木も生えてはおらぬではないか! このままでは凍え!飢え!皆幾ばくもなく倒れてしまう!」
「はい、今ここに連れてきた女連中や野良仕事のできる男どもに畑を作らせているところでございます。はい、雪と氷を掻き分け、、、」
「お前ちょっとこっちに来い」
「は?」
ペシッ!
「バカもん!!それはいつだ?!いつ葉に成り、実が成る? 俺が死んだ後か?」
「あ、いえ、そのぅ。少しでも何かして置かなければと思い、、、」
「もう良いわ。お前ら狩りに向かえ。薪を調達しろ。この城にある薪はすぐに底をつく。それまでになんとかしろぅ!」
イブレートが君主としてマウリッツを繁栄させた事。
この極寒の地で生活の全てを賄えた事。
それはイブレートの人柄と大きな自然の力にあった。
彼はスカンジナビアの者達が嫌い、差別をしたエスキモー達を受け入れ、各地からの行商を無許可で通行するを認めた。
イブレートという侯爵を助けたのは彼ら。
食料の調達にはそのほとんどをエスキモーが賄った。
ヘラジカを牧畜とする流浪の民。その食源は豊富に無限にあった。
また彼らはカヌーを使い漁も得意としていた。
それまでヨーロッパ人に差別を受け、定住先のなかった彼らには、このマウリッツは安堵の地であったし、その報酬もイブレートから頂いた。
諸外国を股に掛け、その商売を成り立たせていた行商達も、何の取り立ても無いマウリッツの地を安住の街として崇め、よその国で仕入れを終わると必ずこの地を訪れては物品を落としていった。
しかしその行商人達もこの噂を聞きつけ、それ以降マウリッツに寄りつくことはなかった。
つまりイブレートの街は、よそ者達で成り立っていた。
そこに繁栄が生まれたのだ。
それこそがイブレートのなせる業だった。
だが、それら全ての民が消えてしまった今。
ここはただの凍りつく極寒の丘と海。
マウリッツに人を誘導したのがイブレートの力だった。
「ふんッ!宝などいくらあっても用無しだ! 食べられぬ上に薪にもならぬ。宝の持ち腐れとはこういうことだ!」
ラーシュ家とその民は、数年の間細々とその暮らしを保ったが、ここに根を這ってしまった民だけを残すと、すごすごと元来た村へと帰って行った。
マウリッツ。
そのバレンツの漁村に残ったラーシュ一族の民。
その中にドロテアという一家がいた。
※ドロテアがマウリッツから来た記述。
36話~「ヘルゲとペトラ・ドロテアはどこの人?」
16行目辺りに記載しております。
※今日も挿絵を掲載しました。
第162~「マウリッツ攻防記8・ニルスの子」
夜の行軍と言う名の葬列です。
宜しかったら是非ご覧ください。




