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170~マウリッツ攻防記・9「稲妻と星」

 「ラーシュ殿。この遺体はどう致しましょう?」

「テーブルと椅子。奥には厨房が備えられている。ここは食事のだろう?」

 

 「そのようであります。まだ食べ終えたばかりの皿が数枚。左手の部屋に」

「ここはこれから俺たちにとっても、食の卓になる。腐るものを置いておくわけにはいかん」

 

 「では、どこに?」

「表にナナカマドの木があったであろ?」

 

 「2本」

「東側の木。西側は城壁に近い。なるべくそこから離れた場所に放り込め。浅くて良い。面倒だ」

 「きっと冬には雪に埋もれてしまうでありましょう」

「そうだっ。ナナカマドには良い肥やしになるであろう。ハハハッ」


 海賊と化し、マウリッツを襲ったラーシュ一族の兵。

椅子に片足を乗せた。

テーブルに横たわったバルウの胸に突き刺さった槍をじり上げながら引っ張った。

兵の顔が噴水の返り血で真っ赤に染まった。


 顔をかたむけ、首の座らないイブレートの肌。

それを見たラーシュ。

彼もまた首をかしげた。


「なるほど。イブレートというのはヨーロッパの民ではなかったのだな。どう見ても北極の民。俺たちと違う国を創れたわけだ、、、まあ良い。それが誰であれ関係はない。ほうむれ!」


 テーブルから床に下ろされたのは、もちろんイブレートにあらずバルウ。抱き起されるまでもなく、螺旋階段の下。両腕を2人の兵に掴まれると仰向けに大の字になったバルウ。ズルズルと城の入り口まで引きずられた。


止まらない鮮血。その大理石の床には、うねる赤い大蛇が這った。


挿絵(By みてみん) 


 「この辺りで良いだろう。この木の真下。ラーシュ伯爵は浅くて構わんと言っておられた。根が張っておるだろうから、適当に始末しよう」


兵達は持っていたたてをスコップ代わりに、遺体が埋まる程度の穴を掘った。


 「こんなもんでいいだろう」

冷えたバルウの両腕と両足を掴むと、ホイッとその穴に放り込んだ。


その身体は転がると、うつ伏せにその顔を埋めた。


兵達はその上に土を掛けた。


「よし、このくらいでいいだろう」

 「おい、さっきの槍はどうした?」

「俺が持ってるよ」

 「貸せ」

そう言うと持っていた兵から槍を奪った大柄な兵。

土の上からグサリととどめを差した。


 

 ナナカマドの木の下に赤い槍がスクと立った。


 


 その霧の出た朝は、昼を異常な高温に変えた。

夕刻には巨大な厚い雲を立ち上がらせると、空をシャンデリアの如くの稲光に包んだ。


 すぐにであった。

光と大音は、ド~ンとナナカマドの木の上に落ちると、彗星すいせいのように根元まで走った。


 地面から立ち上がっていたバルウを刺した槍が、ポキリと折れた。


ナナカマドは根元を残し、真っ二つに割れた。


赤い実がパラパラとその土の上に降り注いだ。


 


 黒い雲はあっという間に過ぎ去った。

夜中には何事もなかったかのように、満面の星がその木を照らした。



※154話~「マウリッツ攻防記・1」に挿絵を掲載致しました。

宜しかったら是非ご覧ください。


※雷で割れたナナカマド。

本編第1話。~「ドロテア」本文に記述があります。

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― 新着の感想 ―
[一言]  「うねる赤い大蛇」、「シャンデリアの如く」、素晴らしい表現だなあと、惚れ惚れしました。  細かな描写の回収が素晴らしいです。  思わずなるほどおって頷いていまいます。
[良い点] バルウの最期は凄惨ですが、武人らしい見事な勇姿でした。 ここでナナカマドが割れたのですね。1話を読み返すと感慨深いです。 イブレートは数々の善行の先に多くの悲しみが重なってしまい読者として…
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