167~ラーシュ物語・14「小屋はカタコンペ」
細々と使い続けて来た小屋の薪は、半分になってしまった。
小屋の天井まで積み上げられていた乾いた薪。
ラーシュがこの家に住みついてから半年。
見え出した入り口からの床は、ボロボロと朽ちてはいたが、厚い板張りに芝土を塗り固めた物。
木靴の踵でコンコンと叩いてみれば、ラーシュにもその厚みは他愛もなくわかった。
彼はいつも考えていた。
これほどの広大な地に根を張る切り株。深い森であったかのような場所。
薪などその時その時でいつでも切り倒せたであろうに、なぜわざわざ小屋に詰め込んだのか?
家族暮らしならこうまでしなくて良かったはずだと。
朝の日が昇った。
「さて、今日の暖炉の分を頂くとするか」
その小屋に入ったラーシュ。
積み上がった薪の中程を引き抜いた。
隙間が空いた薪の群れはドドドドッとラーシュの足元に崩れ、コンコンコン!と床に転がった。
「あッ!」
転がり落ちた薪。ラーシュがもう一度積み上げようと、その山に放り投げ出した時だった。
「あれ? なんだ?これは?」
崩れた薪の山の間から天井を向いて立ち上がった真っ黒な3本の丸太。
それぞれに噛ませられた短い横棒。
十字を切った柱のようなものが3つ見えた。
「ん?まるで十字架?」
ラーシュは積み上げられた薪の上に登ると、その山を崩し始めた。
どんどん低くなっていく薪の山は、入り口から差し込む朝日を小屋の奥まで照らし出した。
黒く煤けた十字の丸太。その墨をパタパタと掃った。
「ゴホッ。なんか書いてある」
なかなか見えて来ない文字。服の裾を雑巾がわりに拭き取った。
丸太の真ん中にできたデコボコ。外からの光がその凹凸を文字にした。
「ん、これがオロクで、、、真ん中のがテオドール? こっちがバルウ。名前か?」
もう少し下を見ようと、十字の下でドタバタと薪を払いよけようとしていると、その振動からか天井から煤の塊りがドカとラーシュの頭に振って来た。
「ゴホッ。ゴホッ!こいつは酷い! ゴホ、ゴホッ」
ラーシュの顔は目だけ残して真っ黒になった。
その天井を見上げると、なにやら薄っすらと色が付いていた。
首を傾げながら、また薪の上に登ったラーシュ。この小屋にあった箒の先で天井の煤を掃った。
「出たぁ!」
それは十字架に縛り付けられたキリストの絵。
フレスコの天井壁画だった。
剥がれ解れた色は、青とオレンジを基調とした物。
それが天井の四隅まで目いっぱい描かれているようであった。
「この黒い煤は、ミサの火から上がった黒煙か?、、、 て、事は教会? いやいや教会なら十字に個々の名前など彫らん、、、まさか? 墓室? じゃあ床下にはこの3人の亡骸が埋葬されているってこと? まるでカタコンペだ。なるほど、これで小屋の方が造りがいいのがわかったぞ」
ラーシュは腕を組み、一人うんうん頷いた。
※カタコンペ。
3世紀頃からあるヨーロッパの地下墓所の事。




