165~掌の鍵
西からの一本道。
ヨーセスとペトラ婆さんは、連れだってヴィーゴとオロクを捜しに出た。
夕暮れの西日は2人の長い影をその砂利の道に敷いた。
と、その影の脳天が立った。
人影に照らされた。
『あれ? ヴィーゴとオロクじゃないかい?』
「ほんに。歩き方でわかるわい」
『お~い! ヴィーゴとオロクぅ! なぜこんな所を歩いているぅ?』
ヨーセスは2人に手を振った。
「おー!ヨーセス!!いたいた!」
「なぜって、お前が俺たちに鍵を渡した後、アデリーヌを捜しに行くと西に向かったからだよ!」
「西って、この道しかないだろ?」
『ああ、まあな』
「で、アデリーヌはいたかい? ん? なんでペトラがいるのさ?」
『ああ、アデリーヌはいたさッ。この西の農夫の娘だった』
「えっ?どういうこと? あの娘は北東バルデの娘じゃなかったのかい?」
『家に帰ったってことさ』
「???」
『そんなことよりさ、お前ら手ぶらだけど宝はどうした? 見つかったかい?』
「それがさ、なんもない。引き出しや箪笥、汚い鏡台の上もガチャガチャ探したけど【Ⅰ-M】なんて物は無かった」
『一つも?」
「ない」
『あッれ~?おかしいな。やっぱりタリエ侯爵に貢いじゃったのかな、、、』
「あるわけないじゃない。ハハハッ! だから言ったでしょ。鍵のお礼は【I-M】って入ってないやつを2,3と。元々無いんだよ!」
ペトラが笑いながら言った。
『なんだ?知っていたのかい?ペトラ』
「何年奉公していると思ってんだい。しかもあのガサツな2人。そんなものあったって、その辺にポイ。その辺にポイッってことは、その辺になければないということ」
『ややこしいが、意味はわかる』
「で、ヴィーゴとオロクや。もちろん鍵のお礼に首飾りか何かを盗ってきたであろうな?」
「ん?あ、いや」
※「な~んで?わたしは確かに言いました!【I-M】じゃなくていいからと!」
『まあまあ、ペトラ。ではとにかく一つも無かったんだ?』
「いや、宝ではないが、一つだけあった」
『は?どういうこと?』
「ペトラが持ってた物だ」
「は?わたし?なんで? わたしは何も持ってはおらんよ」
「今はね。ほらッ」
ヴィーゴは握っていた掌を上に向け、パッと指を開いた。
『ん? 鍵じゃないか。あの館の玄関扉の?』
「それがどうかしたんかい?」
ペトラも覗き込んだ。
ヴィーゴを取り囲んだ4人の影が、更に東に伸びた。
「あ、ごめん。逆さまだ」
クルッ
「ほらッ」
「あッ~!」
『あ~ッ!』
「イブレート様の!」
『刻印!!』
4人は互いの頭を摺りつけながら、しばらくその鍵を青目に落とし込んだ。
文中※ペトラが言った「鍵のお礼」
第102話~「上が変わろうが市民の暮らしは変わらない」
下から9行目辺りで確かに言っている証拠があります。
※本日、前話164~「アデリーヌが作ったカツラ」と2話更新しております。
いつもお読み頂き誠にありがとうございます。




