164~アデリーヌが作ったカツラ
ヘルゲの館の遥か西。
畑の中の一軒家。
ヨーセスは、アデリーヌの父親と話を続けていた。
「ヨーセス殿。アデリーヌにお会いしていかれますか?」
爺様はスクと椅子を立った。
『今、アデリーヌは中で何をしておられるのです?』
「カツラを作っているのでありますよ。自分の髪を切ってしまったので」
『ドロテアとヘルゲの髪で? けどさっき三つ編みをしていたじゃないか?』
「あいつらはフサフサと一角獣の鬣のような毛をしております。たわわな毛で幾つも作っておるようでございます」
『その爺様の禿げた分もか?』
横にいたペトラがプッと噴いた。
「ヨーセス殿。何を言われますか?わしはもうそんな未練たらしいことをする歳ではござりません」
『まだ農機具小屋にも沢山の髪が残っていたし、作ってもらえば良いではありませんか?』
それを聞いた爺様。返事もせずにアデリーヌを呼び出した。
「アデリーヌや。ヨーセス殿がお帰りになられますぞ。どういたす?」
カツラ作りの手を止めたアデリーヌ。
出来たカツラを2つ3つ手に、ヨーセスの前に現れた。
『アデリーヌ。どこに行ってしまったかと思いましたよ』
ニコと笑ったアデリーヌ。
魔女狩りで連れて来られて以来、この娘の笑顔を見た事がなかったヨーセス。
頬を緩めて笑って返した。
「ヨーセス殿。これをヘルゲとドロテアに」
『これを?って、カツラをかい?』
「はい。こちらの短いものをヘルゲに。この長い方をドロテアに」
『は?どうした風の吹き回しだい? 自分で奴らの髪を切り刻んでおきながら』
「あの2人は、この辺りにカニの化け物がいると信じて逃げ帰ったようですので」
『それが?』
「今はきっと丸刈り頭」
「そう。丸刈りだった」
ペトラが笑った。
「これをくれてやるから、もう二度とこの辺りをうろつくのではないと、、、カニ女が言っていたと告げてくださいませ」
『気味が悪いな、、、』
「そういうことです」
『そういうこと?』
「そう思われればしめたものです」
『確かに。髪を切り刻んでおいて、カツラにして返すなど何か得体の知れぬ恐ろしい奴だと』
「ハハハッ。そうですそうです!」
『渡してみよう。どんな顔をするか』
『では、爺様。俺の知らなかった話。たくさん聞かせてもらった。ありがとう』
「良いのですよ。イブレート様にてございますから」
『あ、そうそう。では爺様のお名前はバルウ家の末裔ということなのであれば、バルウ爺様でよろしいのですね?』
「そうでございます。なのでこの娘。アデリーヌ・バルウにてございます」
『カニ娘じゃないもんなッ! ハハッ』
ヨーセスとペトラは、連れだってバルウ爺様の家を出た。
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『ペトラの家にもあるんだろ? あの物干し、、ではなくてもう片方の槍』
「ございますわ」
『それでお前も【I-M】の文字を知っていた? で、それはどこにあるんだい?』
「うちも物干しにしてありますわ。ハハッ」
『お前も物干しかい!』
「あ、それよりも何よりもヘルゲの扉の鍵はどうしました? それを探しに来たのですよ。私は」
『ん? ヴィーゴとオロクが持っているはず。奴らにヘルゲの館の荒探しを頼んだんだ』
前話「163~館に戻ったヘルゲとドロテア」に挿絵を掲載致しました。
宜しかったら是非ご覧くださいませ。




