163~館に戻ったヘルゲとドロテア
ガチャリッ
「あれ? なんだよ?開いてるじゃないか?」
『ん~、荒らされた形跡もないようだが』
「海賊どもは東洋の宝だけ掻っ攫って港に戻ったとキルケが言っていた」
『召使いのペトラが戻って開けたのか? それとも開けたまま私たちと逃げていたのか?』
「海賊は街に火を放って帰って行った」とキルケに聞いたヘルゲとドロテア。
伐られた髪と農民着という出で立ちで、自分の館の玄関扉を開けた。
ドロテアは中に入ると食堂をスルリと抜けた。
そしてその先の寝室の戸を開けると、銀細工で縁取りされた鏡台の前に立った。
『おや?なんか位置が変わっておるよ?』
「なにが?」
『私はいつもここには紅を置かん。それにいつもの帽子。この高さに掛けたんでは手が届かない』
「お前の部屋はいつも、嵐に荒らされた後のように滅茶苦茶で、綺麗に片付けている所を見た事がないわ! わしが見る分にはいつもと変わらぬ汚さだ」
『ハア~?汚さぁ~?! 位置と言っておるだろうがッ!! 私のや・り・や・す・い様になってるのがわからんのかッ!』
「やりやすいってのは、片・づ・けるッ。ということだ!わからんのか! だから盗人に入られたのか、な~んも変わってないのかわからんのだろうがッ?!」
『ふん! まあ良いわ。 物は無くなってはおらぬようだし、窓も扉もそのままだ』
「だろ? お前の勘違いだ。慌てて飛び出したからな。海賊はここまで来てはおらん。後はぁ、、、」
『なんだい?後はって?』
「部屋を片付けておけ」
バシッ!
『何のためにペトラを雇っていると思ってんだい!』
「彼女には料理番と洗濯を頼んだのであろう?! この部屋を片付けさせたら、きっとお前は文句を言う!」
『チッ』
「しかし、ペトラはどこに行ったんであろう?」
『鍵を持っているはずなのに、逃げるとはおかしいじゃないか』
「ああ、おかしい」
『私たちが家の中におる分にはいいが、これでは出かけられん』
「あ、それなら大丈夫。お前、その鏡台で自分の姿を見てみろ」
ドロテアはすっかり忘れていた。
丸刈りの頭だった。
「みっともなくて、どうせ家から出れんわい。ハハハッ!」
ヘルゲの館に押し入り、鍵を掛けて行ったはずのヴィーゴとオロク。
その鍵に彫られた【I-M】を見つけ、表裏と確認。
もう一度半回転させて出て行ってしまったのだ。
つまりはヘルゲの館の鍵は開いたまま。
閉めたはずがまた開いてしまったのだった。
※この話。
少し間が空きましたので、お忘れでしたら「112~オロクとヴィーゴ・鍵の裏側」を参照して頂ければ幸いです。




