161~ラーシュ物語・13「切り株と薪」
今にも崩れ落ちそうな捨てられた家。
床に敷き詰められた、粉となった枯葉。歩けばギシと鳴る古い木の床。
しかし、ドンと座った四隅の柱は斜めに傾いてはいたが、頑丈な物。
横張りの丸太からは幾つかの棚が張られていた。
見事なことにそれは木枠を組んだだけで作られた物。
壁板は芝土の壁に埋め込まれ、一寸の隙間もなかった。
寒さを防ぐにはなんとも見事な造り。
ただ長年の雪の重さからだろうか、屋根だけが朽ち果て、穴の開いたその下の床だけは大鋸屑となって枯葉に溶けていた。
「外から見るのとは違ってどっしりとした造りだ。貧しい農家の家ではこうはいかない。しかしなぜだろう、、、」
ラーシュは考えた。
この辺りには一本たりとも木など生えていない。
これをどこから? 運び込んだとしても多くの人手と金がいる。
ここに住みつくような人間のなせる業ではない。
ラーシュは表に出た。
家の裏手に回ると、多くの切り株が座れと誘わんばかりに整然と。
それは遥か東の方に向かって無数と並んでいた。
ツンドラとは無縁の、暖流に取り囲まれていた場所だったのだろう。
そこには森の形跡があった。
「あー!これを使ったんだ!」
その森の真ん中を南北に貫く深く掘れた道。
丘の斜面に向かって走っていた。
「これは道?いや川だ。多分あの丘の向こうから雪解けの水が流れていた。それが大地を潤していたということか?」
倒された多くの木は、この辺りの風土を少しずつ移り変え、小川の流れさえを変えた。
豊富にあったその水も、時の流れとともに枯渇していった。
「ふッ。いくら金のある者でも水がなくなったらお終いだってことだな。しかし森がなくなったってこの辺りにはキツネもウサギもいるんだ。そこいらの農夫なら捕まえることもできたであろうし、水だって井戸を掘ればなんとかなる」
ラーシュは思った。そんなことも出来ぬ奴。
これはよほどの金持ちだと。
家に戻ったラーシュ。
薪が無いことに気づいた。
「しまったッ! 木が無い!薪どころか火も熾せないではないか!」
もしやと思ったラーシュ。
隣の小屋の扉を開けた。薪がたわわと壁になっていた。
開けた扉からバタバタと雪崩落ちた。
「やっぱり!俺はついている!」
しかし外に食み出た多くの薪は、その扉を閉めることを拒んだ。
「あれ?閉まらなくなっちまった」
ラーシュは使う分だけの薪を拾うと、外に残った薪をまた小屋に放り込んだ。
薪ではない木を見つけた。
「なんだこれ?」
ラーシュはそれに付いていた紐を持つと、ユラユラと揺らした。
赤い羊毛の服を来た操り人形であった。
ぶら下げたそれを母屋の棚に飾った。
※前話160~マウリッツ攻防記・7」に挿絵を掲載。
ニルスの子です!




