16~ヨーセスとドロテア
ヨーセス。
彼はこの取り巻き連中の中でもドロテア切ってのお気に入りだ。
しかし彼はなぜここまでするのか。男爵夫人の言いつけだからとばかりは言えなかった。
それはもちろんのこと、金であった。
ノルウェーの北東を拠点にしていた海賊。彼らが強奪していた品々は、そのほとんどがドロテアの買取りだ。身体と危険だけが資本の海賊には元手は掛かっていない。盗っ人とはそういうものだ。
それを承知のドロテアは、彼らの盗んだ品を安値で叩いた。
この地域、金を持っている爵位ある貴族や豪商は少ない。買ってもらえる者があれば低い値でも売りさばいた。売れなければ盗んだ意味はない。それが唯一の客ドロテア。
それをわかっている男爵夫人は海賊たちの足元を見て買い叩く。
しかし、山積みされたこれらの品々をどうするか。
気に入った調度品や装飾品は手元に置き、残りのほとんどをヘルゲの館のある石畳の通りで売りさばくのだ。外国から寄港した船から降りる商人や船員、軍兵。それが客。
港からほど近い200メートルの直線。
所々にそこから連なる左右に曲がる道。露天や商店はその石畳の通りに群がっていた。
通り中央の交差の角。それが色男ヨーセスの店。
大木の梁で巡らされた天井と、通りにまで突き出た日よけの軒に、鈴なりに垂れ下がるシルクやサテン、ベルベットのドレス。
カラフルな刺繍入りのジャケット。
中に入れば眩しいばかりの数々の宝石。それを加工した首飾りや腕輪や指輪。
ガラスのケースの中に乱雑に置かれていた。
家具や食器はもちろん、高級と名のつく物は何でも揃っていた。
これらの調度品はすべてドロテアからの品々。
毎日のように店の前は大勢の客で賑わい、多くの金持ちがそれらを買い漁っていた。
莫大な売り上げはドロテアなくしては生きていけぬどころか、それ以上の優雅な暮らしをヨーセスに保証していた。
そのドロテアの爪を噛むくらいは易いもんだったし、彼女の行きたい所があれば店を閉めてでも同行するのが常。
言うことには全て「はい!」と返事をした。
この賑わいの大通り。石畳の直線は馬車も行き交うほど広い。
道の名はドロテア通り。
ヨーセスの店から交差する路地裏のような泥の道。
その通りの名がヘルゲ通り。
通りの名前でも、この夫婦の力関係は計り知れた。
外国の商人が買っていった品。
またこの北の海で盗まれ、ドロテアの手元に戻ってくることも幾度かあった。
ヨーセス
画・童晶
絵はイメージです




