153~ラーシュ物語・11「現れた古い芝屋根の家」
人気の無い浜と丘。
ラーシュは小船をその浜辺に乗り上げた。
足元に現れた砂土は自分のいた波打ち際の色とは違った。
薄っすらと赤味を帯びたその砂土は丘の上まで延び、芝の緑に映えていた。
ラーシュは小船から鍬と槍を取り出すと、暴風で引き千切れた縄でグルグル巻きに結んだ。そこにバケツの取っ手を通すとエイヤと肩に担いだ。
「ひとまず歩いてみるか。せっかく流れ着いた場所だ。行くしかない」
ここが島なのか、ラーシュのいた村からの陸続きなのか、それすらもわからいまま前に歩き出した。
行く宛の無い旅などしたことがない男だったが、彼はそれを楽しんだ。
気になるのは父の行方のみ。
あてどもあてども続く芝の荒野。三日も野宿を強いられたラーシュは、途中途中に現れる野ウサギや野ネズミを、槍で突いては口にほうばった。
生肉を食べたことのない男だったが、その冷え切る体の熱を上げるのには致し方ないことだった。
その三日目の夕刻であった。
丘の上から見下ろした、丁度その目の先。
オレンジに映し出された朽ち果てた一軒の家を見つけた。
今にも崩れそうな家であったが、屋根に鬱蒼と生えた芝だけは夕の日に艶やかに染まっていた。
「はて?住んでいるのか?」
ラーシュは身体の冷えを戻そうと、一目散にその丘を駆け下りた。
勢いのついた足は止められず、その家の前を通り過ぎるほどだった。
「おっとととっ」
踏ん張ったラーシュ。クルリと体を翻すと、家の裏手に小さな古屋が備えつけられているのを見つけた。
「んん?誰か住んでいるのか? まさかな」
ラーシュがそう思ったのには理由があった。
住居らしき建物は屋根の置き石も落ち、ぽっかりと穴が空いていた。
柱は傾き、木の外壁は所々剥がれ朽ちていた。
それに比べ、小屋は土を厚く盛った頑丈そうな造り。
そこに打ち付けられた壁板はひとつとして剥がれていなかった。
「ごめんくだされ~! どなたかいらっしゃいますか~!」
ひとまず家らしき崩れた建物に声を掛けてみたラーシュ。
そう言いながらもその家の敷居をドカと跨いだ。
「いるわけないか。これでは住むどころか、外で毛皮に包まって寝た方が増しだな」
中に入るとキョロキョロと辺りを見回した。
そこには大きな鉄の暖炉があった。見るからに古い造りだ。
調理場らしき硬い土床の土間。
ベッドだろうか、箱型の骨組み傾き。
傾きと屋根の数か所の穴を除けば、綺麗な物であった。
ただ長い間、人の住んだ気配は無かった。
人間の臭いがしないのだ。するのは乾いた土の臭いと、すえた木の臭い。
「少し造りかえれば住めるな。ここは芝の丘だ。材料がないが、どうせ一人暮らしになるのだ。隣の小屋はいらない。そこを潰して材料にすればいい」
ラーシュはここに腰を据えることになった。




