150~爺様とマルクの結託
ラーシュ親子が海に流された。
これより4日前のことであった。
「おやおや、遥々(はるばる)お出でなすった。まあ、2人とも上がりなさい」
「失礼します」
その家はラーシュの家から三日三晩、東へ向かう誰も行き交うことのない砂利と砂の道。
農夫の家。アデリーヌの父親。バルウの名を今も掲げたその家だ。
現れたのはマルクとオードという若者であった。
「先日来のお話でありますが」
「わかっておる。わかっておる。まあ良いから座れ。茶でも出す」
「爺様。そんなものは良いから話を」
「まあ慌てるな。おい!アデリーヌ!客人だ。少し小奴らと話があるでな。ちょっと畑でも耕して来てくれんか?」
『あら?お父さま。私に聞かれたくないお話でも?」
この時まだ19のアデリーヌ。
時に現れるこの薄汚い若者を毛嫌いしていたのか、鍬を担ぐとそそくさと畑へと向かった。
「で、お前ら。殺るのか?」
「ああ」
「ほう、血気盛んだのぅ」
「もう嫌なのさ。こんな貧乏な暮らしはさっ」
「で、海賊になって大儲けをしたいと言うことか」
「そうだ」
「ラーシュ家。元は貴族。ラーシュというお前ら民の威厳は捨ててもいいと言うんだな」
「ああ、もうそんなものは到の昔の話さ。誰が俺たちを貴族として認めるかい? この格好を見てみろよ」
「わしらも変わらん。同じ農民着だ」
「もう俺たちは決めたんだ」
「わかった。では話を前に進めよう。実はなわしの親族に魔術使いの女達がおってな」
「魔女かい?」
「そんなようなもんだ。でな、これから4日後、宵闇が迫る頃、お前らのおる西の海岸に巨大な暴風が吹き荒れるそうだ。夜通しだ」
「え?ここから戻ったらすぐじゃないか!それは大変なことだ!」
「いやいや逆じゃ。それが絶好の機会。その風は全ての物音を消し去る。多分だが、お前らがこんな計画を仕組んでおること、ラーシュは気づいておるかも知らん。お前らのこのところの態度でな。露わにしておるじゃろ?」
「ま、まあな。背中越しにアッカンべーをしたりしている」
「ハハッ。そんなことをしておれば薄々気づいておるはずじゃ。用心深いラーシュ親子だ。物音一つ感づけば槍を手にするだろう。奴は強い。鋼の様な肉体を持っておる。高々数人では歯が立たぬ。狙うならその夜だ」
「なるほど」
「ま、お前らが吹き飛ばされぬよう気をつけることだ」
「おい!爺様!湯が沸いておるぞ!ヤカンの蓋がパカパカと!」
「おうおう、マズいマズい!溢れるところだったわい」
「そういう油断をしてはならぬということだな。爺様。ハハッ!」
「、、、ま、そういうことだ。では殺った暁には、ここの芋でも好きなだけ持ってゆけ」
「それはいらん。そんなもの捨てるほどある。ハハッ」




