148~ラーシュ物語・8「吹いた風・芝土の家」
芝土で固められた家。薪をくべればなんと暖かいことか。
その日の北風は夜になるほど強まり、浜辺の波はうねりを上げて住居近くまで迫っていた。
冷たい暴風が吹き荒れ、
かしこの物音はすべてその風の音に打ち消された。
「親父。すごい天気だな。こんな嵐は久しぶりだ」
「ああ、外に置いといた物、大丈夫か?」
「バケツも梯子も吹っ飛んでしまっているかな?」
「波も迫っているようだが」
「うちの船も流されてしまうな」
「わしが若い頃造った小船。また一から作るのも大変だが、今外に出て行くのは危険だ」
「しかしそれでは困る。芋畑はなんとかなっても、、、」
「ラーシュ。お前がいなくなってしまったらその方が困るのだ。やめておけ!」
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「この嵐は絶好のチャンスだ」
「人っ子一人外には出ていない。しかも物音は風と波で掻き消される」
「行くか?オード」
「はい、マルクさま。他の奴らにも声を掛けてきましょう」
「頼んだ」
10人の若者であった。
吹き荒れる暴風は浜の潮を空娶り、その芝土の家々の壁を叩いていた。
「慌てるなぁ!吹き飛ばされるぞ~!」
「紐は持ったかぁ~?」
「斧は持ったか~!」
「しっかり握って持っておれ~!」
荒れた風は彼らの頬を叩きつけた。
団子になり固まってラーシュの家に向かった10人。
髪の毛さえも抜けるのではないかと思うほどの北風であった。
そのうちの5人はラーシュに逃げられぬよう家の裏手。大きな窓の下でその時を待った。
玄関扉に廻ったのはマルク。
「ここだ!鍵は開いているか?」
マルクは仲間の若者に声を掛けた。
ガチャリ ガチャ
「あ、あれ?開いてます!」
「はぁ?開いている? こんな風の日に不用心な男だ」
「容易いですな」
「いくぞ!!」
マルクが扉のノブに手を掛けた。
シカと握り締めるとクルリと回してをその戸を開けた。
パッカ~ン!! バタ~ン!
ドアノブを持ったままだったマルク。開いた扉と家壁の間に挟まった。
開いた入り口から家の中に一挙に流れ込んだ突風は、その部屋のカーテンを大きく舞い上がらせると部屋中を渦の風と巻いた。
風は瞬く間にそこを通り抜けると、裏手の窓ガラスをもパリンと割って破片を外に吹き飛ばした。
「マルクさま~ぁ!」
オードは玄関扉を思い切り手前に引っ張り、挟まれて顔面を打ちつけたマルクをそこから引っ張り出した。
「マルクさま!早くっ!中に入りますよ!」
「痛ててて」
頬に手をあてがい、マルクはオードの背中に貼りつくと、ドカドカと家に足を踏み入れた。
「出て来い!!ラーシュッ!どこにいる~ぅ!!」
「どこだぁ!どこにいるぅ!」
バリバリと割れる裏窓のガラスと一緒に、勝手口の裏扉もバタンと開いた。
もはや風の通り道と化したラーシュの家。
一人の男がゴロゴロと床を転がった。
寝た切りのラーシュの父親だった。
砂をも巻き上げた暴風吹きずさぶ浜。その土壁の家の外。
ラーシュの父は、その勝手口からグルグルと転がりながら、舞い上がった白砂とともに藻屑と消えていった。
※前話「146~ラーシュの正体」に挿絵を掲載しました。
今一の風景画。




