146~ラーシュの正体
『しかしなぁ、東洋の宝はそれほど多くはなかった。そんな大勢の海賊がそれだけで手一杯になるとは思えんが?』
「ドロテア。あれじゃないか?きっとそいつらはヨーセスの店の物も騙し取ってる。それでだ。それで山ほどになっちまった」
『あれ?ヘルゲ。そいつらは貴族の格好をしていたと言っていなかったかい?』
「ん?確かに。キルケとイワンはそう言っていた。だから騙されたんだと言っていた」
『まだあいつら外にいるか?』
「聞いてみるか。あの3人に」
ヘルゲとドロテアはアグニアには寸の挨拶もせずに、ペトラの家の玄関扉を開けた。
辺りを見渡したヘルゲ。
もう通りには彼らの姿はなかった。
「どこに行った?」
キルケとイワン、それにトール。
ペトラの外からベランダに攀じ登り、落ちた物干し竿を片付けていた。
「あれ?あの2人帰って行くぞ」
ペトラの家を後にするヘルゲとドロテア。その姿を3人はベランダの上から眺めていた。
海賊に強奪されたと嘘を突き通したアグニア。東洋の宝はそのまま北東バルデの浜小屋に、首領ハラルが持ち帰った。
アグニアはヤレヤレとミントティーを啜った。
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農夫の爺様とアデリーヌの家のある農道沿い。
その道を三日三晩西に向かうと現れるのが、小さな村落。他の物を寄せ付けないことは、その高く聳える見晴台からも窺えた。
「オード」
「何用でございますか? マルク様」
「ヘルゲの街の宝はまんまとせしめたが、、、それよりもぉ」
「ヨーセスとやらの店のことですね? それよりもとは?」
「まだ見つからんか? ラーシュだ」
「はい、ヘルゲの街にもそれらしき者は」
マルクとオード。
それは貴族の為りをして、ヨーセスの店の宝を全て掠め奪っていった海賊。
彼らは人知れずこの西の荒れ地で、盗みを生業にして生活していた民であった。
知っていたのはベルゲンの侯爵タリエのみ。しかしその素性はタリエといえど知らぬ者達。ただただ貢ぎ物を頂いて、この辺り一帯。近海の盗みを許可していただけであった。
「あいつは逃げよった。しかしな、あいつを殺さねばラーシュ家を滅ぼすということにはならんのだ」
「重々わかっております」
「奴の貧乏でも細々と暮らせばいいというやり方には、ほとほと嫌気が差したのだ。呆れたのだ」
「わたくしもでございます」
ラーシュ。
その名の通り、この地の民を治めていた若き青年であった。
そんな彼に反発を繰り返してきたのが、マルクやオード達、ラーシュと同世代の若い連中であった。
「この地は目の前が煌々たる大海。大きな船も行き来する。乗り込んで強奪しちまえばいかほども儲かるというに。なぜこんな萎れた芋ばかり食わんといかんのだ」
「なあマルク。殺っちまうかい? 奴を」
「もう我慢ならんな」
「そしたら、俺が海賊の首領。お前がこの地を統治しろ。ここからはお前をマルク様と呼んでやる」
「へへっ」
「海賊らしくヤギの毛で口髭でも作ろうか?」
「ああ、お前は髭が薄いからな。ハハハッ」




