145~ペトラの家にアグニアが?
「おい!ペトラぁ~!開けんかぁ~!」
召使のいペトラに玄関の扉を閉められたドロテアとヘルゲ。
ドンドンとその扉を叩いた。
「籠りやがって。あいつ鍵を持っておると見たわい」
しばらく待っていた2人。ドロテアが何気に玄関ノブをガチャリと回すと、いとも簡単にクルリと廻った。
『なんだよ。端から開いてたんじゃないか、、、』
「お~い!ペトラ~! 勝手に上がるぞ!どこに行ったぁ~!」
ドロテアとヘルゲ。ドカドカと部屋に入ると背中を向けた婆さんが、椅子に腰かけお茶を啜っていた。立ち昇ったその熱いミントの香りは部屋の天井から降りヘルゲの鼻を突いた。
「おい!ペトラ!なぜ開けぬ!」
怒ったヘルゲ。その声に婆さんは振り向いた。
『あれ?おや? お前? なぜここにいる?』
振り向いたのはアグニアであった。
「ん?どなたさまですか? 人の家に勝手に上がり込むとは?」
「わしじゃ、わしじゃ! ヘルゲじゃ」
アグニアは目をパチクリ。しばらく2人の顔をジロと眺めた。
「あッ!ドロテアさまにヘルゲ殿! どうしたのですか?その頭。どなたかと思いましたわ」
「あれだけ大声で呼んだのになぜ出て来なかったのだ!」
「は?ワシはペトラではありませぬもの。アグニア。呼ばれた記憶はございません」
「屁理屈を言いおって! でっ!ペトラはどこに行った?!」
ヘルゲがアグニアにそう尋ねると続けざまにドロテアも尋ねた。
『おい!アグニア!なぜここにいる?』
「え~と、ワシはどちらの質問に先に答えれば良いのでしょうか? ペトラは用事があるとかで先ほど出かけましたわ」
『用事ぃ~?私の用件が終わらん内に出かけたというのか?』
「物干し竿が落ちて壊れたとか言って」
『ふふ、私がキルケとイワンと話をしておる間にこっそり抜け出しおったな』
「あんにゃろ~!」
『で、お前はなぜここにおるのだ?』
「なぜ?なにを申されます。ドロテアさまにお買い上げ頂いた、ほれ、あのマウリッツに近い浜小屋で」
『あっ!』
「その東洋のお宝を手下の海賊どもと共にお届けに参ったのですよ。そうしましたところ、ヨーセスの店は閉まっておりますわ、ドロテアさまもおられないわで」
『そ、そうか』
「そうしましたら、そこの乾物屋で大きな火事に出くわしまして。取り巻いていたのはどこからやって来たのか大勢の海賊。ワシらの荷車の馬車の覆いを引っ剥がすと、それごと奪っていったのであります」
『まるごと持って行かれたのかい?』
「はい。ぜ~んぶ」
『あちゃ』
「奴ら、なにやら言っておりました」
『なにを?』
「もうヘルゲの館に行く必要はない。手一杯のお宝だと。ヘルゲの家にあるものなんぞより、きっとこの宝の方が良き物だろうと引き返していきました」
『バカにしおって』
「お前らも海賊ならなぜやっつけぬのだ!」
ヘルゲがアグニアに怒鳴った。
「なにをおっしゃいます。ワシらはお宝を届けに参っただけ。手勢も少ない上に武器などな~んも持ってはおりませんよ。奴らの言うがまま。で、どうしたものかとしばらく知り合いのこのペトラの家で茶をもてなしてもらっておったところでございます」
「奪われたのはお前らのせいだ。お金を返してもらおう」
ヘルゲが言うと、ドロテアがその短くなった頭をペシッと叩いた。
『まだその代金は払っておらんのだよ!』
※第15話「幌馬車の爪切り」に挿絵を掲載致しました。
尚、その場面は余りにグロテスク。よってその部分の絵ではありません。
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