144~マウリッツ城・宝の倉庫
マウリッツの城。
バルウの部屋らしき残物。
廊下を挟んでその向かいにあったのが一つだけ安っぽく色の違う扉。元の扉はただ一つ鍵の付いたどっしりとした一本木のナナカマドで作られたもの。
鍵付きの立派な扉は、どうやらヘルゲの玄関扉へとあしらわれたようだ。
しかしこの部屋。ラーシュ家がマウリッツを占領すると、その公爵の悪戯部屋に使われた。
それは鍵が付いていたからに他ならない。
城壁の外。今ではゲルーダ達飯炊き女が住みこんでいる、元は宝の倉庫。
ラーシュ公爵時代、ここには多くのもてなし女が住んでいた。いわゆる女郎部屋だ。
ここにあった【I-M】と彫られた宝はしばらくはここに保管されたままであったが、いつの間にか全てこの一族により、どこかに運び込まれてしまっていた。
つまり、ヘルゲ家がここを領地にした時にはすでに【I-M】という宝は無かったのだ。
ヘルゲとドロテアは庶民にとっては高級品だが掴まされたのは一級品ではなかった。
アグニア婆さんがドロテアからねぎらいにもらった宝石箱。その中に入っていた古い紙きれ。
そこで見つけたのが、唯一【I-M】と記されたサファイヤの指輪であったのだ。
ただ一番値が張るというだけではなかったのだ。
ゲルーダ達はドロテアに命じられその倉庫を飯炊き小屋として使ったが、女たちにとっては住み心地の良いものであった。
それはラーシュ公爵の女郎部屋。
倉庫の2階部屋の3室はその女郎たちの化粧部屋。
残されたままであったのだ。
それは瓶詰のオリーブ油。極寒の厳しい大地から肌を守る為の物。
それはコール。鉱物や粘土を混ぜ合わせたアイライン用。
それは鉛入りのクリーム。死んでしまうと言われようが肌の白さを競う為の溶解物。
それは金髪を日焼けで作った彼女たちの、艶出し用のサフランとレモン。
自然由来のそれらの化粧道具は腐ることなく残っていた。
戒律の厳しかったキリスト教の化粧を欲とした清楚な身だしなみを作る時代の化粧道具。
またその後の白粉を厚く上乗りする時代だった頃の化粧道具。
それらが混在し、鏡と化粧台とともに置き去りになって残されていた。
ゲルーダ達はマーゲロイという島の殺伐とした片田舎で育ってきたが、それゆえこのマウリッツ城の片隅の倉庫部屋で見違えるほど美しくなっていったのだ。
女郎部屋に成る前は、宝物庫。
そこには当時、ラーシュ家の兵が取り巻くように警備をしていた。
ゲルーダやセシーリアは、それも残されていた鉄兜や鎧、盾に槍。
女が身に着けるには大きな物であったが、飯支度と収監された男たちへの配膳が終わるとそれらを身に着けて城を張った。
見張る分には着ることもなかったのだが、その鎧のカッコよさに警備と言ってメリハリをつけるように着用したのだ。
コスチュームプレイ然としたもの。
変化を楽しむことは今も昔も変わらなかった。
※前話143~「ラーシュ物語7・チョンとおまじない」に挿絵を掲載致しました。
いつも後載せになりごめんなさい。
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