142~ラーシュ物語6・「ハッセとアグニアの謀(はかりごと)」
「アグニア、顔は見られてはいないな?」
「大丈夫さ。この大きな厚い布。落ちやせんし、脱ぎもしない」
「ラーシュの奴。まどうせ今度会っても、この薄汚い婆さんじゃわからんだろうな。ハハッ」
「ハッセ!言い過ぎじゃ!」
「男の子だろ? うまくやった。アデリーヌには何かお礼をせんといかんな」
「あのラーシュという男。どこに産湯を飲む風習なんかあるってのかい。簡単に信じおったわ。あれを飲んでまでここに住みつきたいというのは、よっぽど、、、」
「よっぽど?」
「アデリーヌに惚れ込んでいるのじゃろ? ワシの目はごまかせん。ま、ワシらとマウリッツの混血は奴の身体の中を流れたというわけだ」
「で、この後はどうする?」
「すぐにってわけにはいかん。あの赤子は首が座るまでにもう少しかかるでの。移動は危険じゃ。しばらく待つのだ」
「待ってどうする?」
「ドロテアに密告するのだ。この漁村の丘の上に魔術使いの若い女がいると」
「ん? それでは連れて行かれるだけではないか?」
「ハッセ。お前も知っているだろ? ドロテアの目的は男だ。ワシももう少し若ければラーシュに惚れておったな。お前が言った通りの男前じゃった。相当な色男。その上あの見事な体つきだ。あの腕にアデリーヌが抱かれたかと思うとこのワシの体がヒクヒクしてくるわい」
「バカかお前。亭主の前で言う言葉かい。もう少し若くたってババアだったじゃねえか。呆れたババアだ」
「呆れたババアだとぅ! 女房に言う言葉かい!」
「ま、良いよ。 で、どうするの?」
「アデリーヌがドロテアに捕まれば、ラーシュはマウリッツの城という監獄行きだ」
「まあそうだろうな。しかしアデリーヌは殺されてしまうぞ? 火炙りか海にドボンだ。そんなことになったらバルウの兄貴にわしが殺されちまう」
「大丈夫だ。ヘルゲの街にはヨーセスがおる。そんな目に合わんようにしてくれるさ。それにペトラも。 ただそうなったら結婚は破綻だ。ただ子を作りにこの村に来て、またバルウの兄貴の所に戻るだけ。兄貴も承知だ」
「あの赤子はどうする? わしらにとっては戦いの、、、復興の僕になる子だ」
「男好きのドロテアのことだ。あの子はきっとラーシュと共にマウリッツの城だ。ドロテアは先の先まで測って男を漁る。ましてやラーシュとアデリーヌの子だ。好顔の美少年になるに決まっておる」
「けどな。あそこは男だけだぞ。面倒を見るのはラーシュしかいない。赤子を連れ出すにも何の手立てもないではないか?」
「あそこには、ヨーセスの妹ゲルーダがいるじゃないか。心配はいらん」
「ドロテアもラーシュもな、2人ともワシらに見張られておるようなもんさ」
「ヘルゲは?」
「奴は最初から眼中にない」
しかし、ハッセとアグニアに予期せぬことが起きた。
それは魔術使いの女がこの漁村の丘の上にいると、ドロテアに密告した後のことであった。
すっかり惚れて込んでしまっていたのはさにあらず、アデリーヌの方であったのだ。
※第45話~「ちゅうッ ちゅうッ アデリーヌ」に挿絵を掲載致しました。
宜しかったらお覗きくださいませ。




