136~ペトラとヨーセス・館の鍵
「おや、ペトラ。久しぶりじゃないか? ここのところ芋も野菜も取りに来なかったではないか?」
『そりゃあそうですよ。ドロテアは長らく留守にしておりましたし、ヘルゲ1人なら夕飯の魚のお供はその辺に生えている草ッ葉でかまいませんからね。ハハッ! いやいやそんなことより」
「なんだ、息が切れているようではないか?」
『おかしな事に、この辺りに逃げて来ていたはずのヘルゲとドロテアがうちの家の前まで戻ってきて、怒鳴り声を上げ出したのですよ』
「あれま。お前、何かしでかした?」
『さらにおかしな事に、バリバリの羊刈りの頭で。さらにさらにおかしな事に、農民着』
「ほう」
『私は思ったのです。これは爺様のとこのボロ服。背中に小汚い蟹の刺繍がしてあったので、ポンッとわかったのです。これは爺様にいたずらされたのだと』
「わかった?」
『ここに来るまでの道すがら、笑いを堪えるのにひと苦労でしたわ』
「苦労は買ってでもしろというからの」
『で、やはり来ました?』
「来た。しかし髪の毛チョッキンナはアデリーヌが仕出かしたこと」
『え、アデリーヌもここに? あれ? 確かキルケとイワンという若者が薪小屋から夜中ひっそりと、、、確かヨーセスの店に連れ出したはずですが?』
「そのヨーセス殿もここにおるよ」
『ヨーセス?殿?』
「ペトラ。まあ中に入りんしゃい」
『おやまあ、ヨーセス! ここでなにをしている? てっきり、ヘルゲの館で盗みを働いているもんだとばかり。 ヴィーゴも一緒かい?』
「ヨーセス、、殿!じゃ!」
『は?なにを言っておる?小奴は前から知っておる。ドロテアに玩ばれておる薪割りの男だ』
「ペトラ~、、それがなぁ。恐れ多くも、イブレート家のご子息であったようなんじゃぁ」
『は?おやまあ』
「なにをとぼけておるのだ。さっきヨーセス殿からお聞きしましたぞよ。なにやらマーゲロイの島からドロテアの命令を受け、ヨーセス殿を連れ出したのは、お前の姉上アグニアではないか? 知らぬはずはないわな」
『、、、』
「で、なんの用事だ?」
『いや、このヨーセスを捜していたら、ここまで』
「ペトラ。殿だ!ヨーセス殿!」
『そのぅ、、、ヘルゲの館の玄関扉。その鍵を返してもらおうかと』
「え? ヘルゲの館にいなかったかい? お宝を漁ってると思うんだけど。昨夜のうちに出て行ってしまったかな? それともヴィーゴ、まさかヘルゲに見つかって逃げた?」
『見つかったということは鍵が開いていたということ。そこはヴィーゴを問いただすはず。 私の家に来て怒鳴る意味はない』
「じゃ、違うな。けどさ、ヘルゲとドロテアは大バカ者だな。海賊に部屋を荒らされたってことは、窓も扉も叩き割られてるってことさ。鍵なんか無くたって家には入れる。海賊が盗んだ家の鍵を掛けて出て行くかよ!ヴィーゴにも言ってあるさ! 海賊のように荒らして来いって!ハハッ」
『ヨーセス。あんたの方がおバカっちょ。なぜ鍵を返せと言って来たか?』
「おい、ペトラ。ヨーセス殿に口が悪い。慎め」
『あの格好。きっと館の前を農民の振りして通り過ぎて来たはず。そりゃあ心配だもの』
「たぶんな」
『しかし私の家まで来て、館の中に入れないから鍵を返せと言って来た』
「?」
『つまり館は何ごともなかったのよ』
※かなり前話ですが、第9話「北か南か」に挿絵を掲載致しました。
宜しかったら是非ご覧ください。




