134~ヤンは勝利の子
「その粉薬が入っていたイルカの皮袋。粉に紛れて入っていたのが、この城の図であります。故意に入れた物か、たまたまなのかはわかりませんが、先祖の言い伝えにてございます」
「しかし爺様はなぜ事もあろうに、敵であるラーシュ家の末裔にアデリーヌを嫁に?」
「その前に。ヨーセス殿はなぜアデリーヌをお捜しに? こんな遠くまで。他に宛てはあったでございましょうに」
「途中ペトラに会ったのさ。アデリーヌだけではないよ。ヘルゲとドロテアも捜していたのさ。どこに逃げたのかと。そのペトラがこの一本道を2人が逃げたと言っていたから、それで」
「ほう。なぜヘルゲとドロテアは逃げているのです?」
「海賊が街に火を着けて、館に攻めて来ると脅したのさ。で、火を着けたのはアデリーヌ。着けろと言ったのが俺」
「ハハッ!ヨーセス殿。あなた様は結局なにをなさりたいのですか?」
「マウリッツの復興さ。皆、待ち望んでいるのさ」
「皆?と言いますと?」
「マーゲロイの島の者たちだ」
「それはそれは、とてつもなく無理なこと。ヘルゲやドロテアの上には、最大の領主タリエ侯爵が付いておいでになる。とてもとても」
「爺様はこのままでいいのかい? この片田舎の農夫のままで」
「まあ、それはそれ。バルウ家としてはすでに仇を打ったも同然」
「仇? いつ? 誰も殺られてはいないし、ドロテアも意気揚々と男を食い漁ってる。マウリッツも未だヘルゲとドロテアの支配下だ。戦争も小競り合いも起きてはいないよ?」
「戦うだけが敵討ちではございません。血で戦ったのでありますよ」
「血?だから闘いだろ?」
「血です」
「?」
「アデリーヌには子が産まれました」
「知っている!ヤンであろ?」
「ほ~ぅ! よくご存じでっ! そこまでお知りになるとはっ!」
「マウリッツの城でラーシュとドロテアがいたす間、子守を頼まれて」
「あれ?いたした?」
「いたす前に、イブレートの亡霊が出た。逃げた。俺も」
「ハハッ! イブレート・ヨーセスさまがイブレート様の亡霊に逃げなすったとわ!」
「先祖であってもお化けは怖いんだよっ!」
「しかし、ヤンをお抱きくださった? ヨーセス様に包まれるとは誠にありがたい。やはりヤンはヤンであった」
「意味がわからないが」
「よろしいですか? わたし達バルウ家は戦わずして勝ったのです」
「?」
「ラーシュ家の血を取り込んだのでございます。アデリーヌはその血と子種を体内に宿し身籠った。そしてバルウ家という母体から産み落とした。つまり、ラーシュの血はバルウ家の支配下。ヤンは勝利の子であります」
「爺様、、、恐ろしや、、、」
「しかも偶然にもその子をイブレート様のご子孫様が抱き上げた」
「?たまたまドロテアが、今日はいたすところをヴィーゴに見せたいと、、、」
「その偶然が必然だったということでありましょう。こういう勝ち方もあるのです」
「ではこの結婚は?!」
※本日、134話「ヤンは勝利の子」
135話「一角獣ヤン?」
2話投稿致しております。
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