132~捨てられたイッカクという女神
「金儲け?」
「そう。お前らも知っているだろ? 一角獣。つまりユニコーンの角には解毒作用がある。しかし、ユニコーンなどいるのかいないのか、そんなものを見た奴もいない」
ゲルーダが言った。
「俺は信じてるけどなっ」
ニルスが返した。
「操り人形の芝居でもよく登場させたさ」
「それは芝居だろ?」
テオドールがニルスの横でクスと笑った。
「誰も見たことがないのに、角には解毒っておかしいだろ? あればそれはとんでもない貴重品。一級品のお宝以上だ」
ゲルーダは一つ一つの引き出しを開けながら言った。
「あっ!わかった!このイッカクの角を! 偽ってユニコーンの角と!?」
「たぶん。配分や調合を変えて、色んな病気や怪我の治療薬として使った。使ったというよりも、売りさばいていた、、、んじゃないかな? これだけの量だ」
「なるほどっ!けど、このイッカクの角も薬になるのかい?」
「エスキモーから聞いた話だが、この長い角は銛」
「銛?」
「昔々のこと。イヌイットの娘がシロイルカの頭に銛を打ち込んだのだ。すると娘はその厚い氷の下、銛にしがみついたまま大海に引きづり込まれた。 娘はシロイルカに刳るまわれ、銛は牙となってイッカクという人魚になった。女神伝説だ」
「へ~! けどその伝説を信じている民が殺して、薬に?」
「しないよなぁ」
「ああ」
「それとな、この角には氷の厚さ、塩の濃度、水温や餌の動き。それらを感じる役目が備えられているらしいんだ。つまりエスキモーは彼らの後を追うことで、安心して遊牧を繰り返し、その生活を支えていた」
「イッカクなくしてエスキモーなしか、、、やっぱりそれは殺せないよな」
「けどゲルーダ。お前、この部屋がエスキモーの部屋と思い込んで勝手に話しているけどさ?」
「どう見たってそうだろ? ほれ、そこにもカヌーのオールが2本。2つの肖像画もエスキモーだ。そしてイッカク」
「まあな」
「それと、使われていない暖炉だ」
「どういうこと?」
「エスキモーにとって毛皮さえ纏っていれば、ここはまだ暖かい土地だ。火を焚く必要などあるまい」
「そうか。それで使わなかったと」
「しかしなぜその女神。イッカクを射った?」
「射ることのできる理由を作ったんじゃないかな? なにか伝説を覆すようなこと」
ゲルーダは色の違う粉を舐めた。
「誰が?」
ゴホッ!ゴホッ!
「イブレートしかいないだろ?」
「角は雄だけだぜ」
ニルスが言った。
「俺は人形を精巧に作ったんだ。一流の人形師だからな。だからユニコーンの股間にはちょっこっとあれをな。付けた」
「もしかすると、イッカクも角があるのは雄だけ?、、、となると女神伝説はありえない、、、」
「そこをイブレートが突けば、イッカクの角はいくらでも乱獲できる」
「売りさばく商人は溢れるくらいこの地に住んでいたろうし、国を跨ぐ行商人も多く行き交っていた」
「ボロ儲けだ」
「イッカクに掛かっていた彼らの流浪の生活は、ここを安住の地とすることでそれも潰えた」
「イッカクに頼ることもなくなった、、、」
「で、金に走った」
【左・海獣イッカク(現存)】【右・一角獣ユニコーン(伝説)】
※前話131~「壁は薬箱?」に挿絵掲載。
壁に時間を費やしてしまいました、、、




