130~鍵付きの部屋は魔物の部屋?
「この部屋かい? テオドール」
「そうだ。俺たちはミカルたちを抱えている。ゲルーダ、開けてくれ」
ガチャガチャ
「あれ? 鍵か? ノブが回らないよ」
「あ、そこは足元に小さな外鍵が付いていて、、長方形の鉄のプレート。それを外せば開くはずだ」
「外鍵?あ、これか? しかしノブが回らないのは変じゃないか?」
「とにかくそれを外してみろよ。こいつら重いんだよ。早く!」
ガチャリ グルリ グルグル
「ほら、やっぱり。ノブは回らないし。ノブの下に鍵穴もあるよ」
「鍵穴?」
「お前ら、この部屋に入った事はあるのかい?」
「いや、、、ない。住んでない部屋には用はないし。昼間でも暗い城だ。特にこの行き止まりの廊下はな。外鍵があるのは知っていたがまさか鍵穴があるとは」
「外鍵があるのも変だが、、、これでは開かないじゃないか?」
『最初から一階の広間にでも寝かせて置けば良かったんだよ。もう暖炉だって暖まってんだからさ。わざわざ』
ラーシュが厭きれて言った。
『俺の部屋貸そうか? 目の前で一番近いしな』
「お、ラーシュ。こいつらの身体が暖まるまで頼めるかい?」
テオドールが言った。
『、、、やっぱりダメ』
「なんで?」
『ダメなものは駄目。なんとか開けなよ。この部屋』
ラーシュは自分の部屋。ベッド脇の箪笥に仕舞い込んでいたサファイヤのリングのことを思い出した。
「ゲルーダ。試しにお前にさっき渡した城壁の扉の鍵。差し込んでみろよ」
ミカルの足首を抱えていたニルスが言った。
「どうせ無駄だと思うが、、、」
ゲルーダは、鎧の脇に仕舞い込んだ鍵を取り出すと、セシーリアにその鍵穴を蝋のランプで照らすよう命じた。
「入った」
グル ガチャ カタンッ
「開いたかも!」
「えッ!?」
ゲルーダはゆっくりと冷たい真鍮のノブを回した。
「開いたッ!」
「なぜ、ここの鍵と城壁の扉の鍵が同じなのだ?」
テオドールは首を傾げた。
「おい!ラーシュ!お前!先に入れッ!」
ゲルーダがラーシュを指差した。
『えっ?なんで新入りの俺が?』
「お隣さんの部屋に挨拶をするのはラーシュ。お前の役目だ」
『ゲルーダとやら、怖くなったのだろ? 鍵が同じだと知って。中から化け物や死体が出て来るかもな!ハハッ! お前は強気なのか弱気なのかちっともわからん』
「、、、」
『わかったよ。では、ご挨拶に。おい、そっちの女! ランプを貸せ!』
セシーリアはラーシュに蝋の火を渡した。
ギギギギギぃ~
と、開けた扉の隙間から一筋の黄色い光が差し込んだ。
それが廊下を這うと反対側のラーシュの部屋の扉に扇形の日を映し出した。
『ハハッ。ランプはいらないな。こっちは南向きの部屋。それに東側に窓があるようだ』
「明るいのか?」
『出て来た光を見ればわかるだろう?』
ラーシュはその部屋に右足を一歩踏み入れた。
半開きのまま立ち止まったラーシュ。黒目だけで部屋の隅々を窺った。
『肖像画が掛かっている』
「肖像画?」
「肖像画?」
ゲルーダとテオドールが同時に声を上げた。
『ああ、毛で覆われた人間の』
「化け物!魔物!の部屋かい!?外鍵って!そう言うこと?!」
※前話・129話「震えるミカル・運び出す男たち」に挿絵を掲載しました。
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