13~アデリーヌがいない?
1 庭の掃き掃除。毎日欠かさず
2 家の中をくまなく雑巾がけ 毎日欠かさず
3 草木の手入れ 毎日欠かさず
4 洗濯 念入りにゴシゴシと 毎日欠かさず
あとはごゆっくり。
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「なんだこれは、ゆっくりなど出来んではないか。しかも、アデリーヌの見張りとは一言も書いておらぬ、、」
ドロテアはヘルゲにその書置きを残して、お気に入りの薪割りの男達と北へ向かった。
その日。
太陽が西に沈み、辺りが暗くなり始めると料理番の婆さんはそぞろに帰って行った。
「ドロテアさまがいないと料理も手が抜けますわ。ハハハ」
この地方の夜は遅い。日が沈んだといっても、かなりの夜更け。
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「しめしめ。今夜はアデリーヌとわしの2人だけ。見張りの当番は明日の明朝から。今夜しかないのう」
暗くなってから数時間。ヘルゲは時を見計らって、隣の薪小屋に向かった。
右手には剝き出しのロウソクのランプ。小屋のドアを左手でガラと開けた。
「アデリーヌや。アデリーヌはおるか?」
ヘルゲはそのランプの灯りで床を照らした。
「おらんか?アデリーヌ? お返事はっ?」
「ん?あれ? どこへいった? 寝ておるのか? ならば好都合」
今度は枯葉のベッドにロウソクの火を向けた。
「痛ッ」
床に転がった鉄の錨。ヘルゲはそれに足を引っかけた。
「そうか。ここか」
錨から続く垂れた鎖は枯葉の中。
「おやおや。そうかい。ベッドの中かい? 恥ずかしゅうて枯葉に隠れておるのだな」
ヘルゲは他人には見せられないニタとした顔で、ゆっくりとその鎖を引っ張った。
ズルズル ジャリン ズルズル ジャリン
枯葉の粉が舞い上がった。
「よいしょ よいしょっと。
アデリーヌや。早よ顔を出せ。へへへぇ」
ジャラリ~ン ジャラジャララ~ン
「ん?」
枯葉のベッドから出てきたのは、鎖の先だった。
「あれ?! アデリーヌがいない?! どうした? 逃げたのか? しかしこの鎖には鍵がしてあったはず。自分では容易に解けん。どこへいった?」
ヘルゲはランプをその場に置くと、小屋の中を隅から隅まで探し廻った。
「アデリーヌや。アデリーヌ!」
すると、ヘルゲの背中が一気にポーと明るくなった。
振り向いた。
「あ、マズい!マズい~!」
置いたランプのロウソクの火が、枯葉と薪にメラメラと燃え移った。
慌てたヘルゲは、周りに落ちていた枯葉を掃うと、重い靴の踵でその炎を踏み蹴散らした。
バタバタ パッパッ バタバタ パッパッ
「ヤバい!ヤバい!消えろ!消えてくれ!消えんかぁ~!」
「お、そうだ。表に井戸から汲んだ水がある」
ヘルゲは小屋の扉を開けて、水の入ったその桶を担ぐと炎にバシャリとかけた。
「ふえ~。一件落着」
床からは白い蒸気がジュ~と上がった。




