128~ゲルーダと男たち・鍵を拾っただけの奪還
マウリッツの城では、城に収監された13人の男たちとゲルーダの押し問答が続いていた。
「大丈夫だ。安心しな。お前らの飯は私たちがいつものように届ける」
ゲルーダが言った。
「しかし、もう城は開いたんだ。ここにいる必要はないじゃないか?」
「テオドール。逃げるつもりなのかい? どこへ? どうやって?」
「自分の家に決まっているだろっ!」
「歩いてかい? そこのヤギに跨ってかい? ハハッ」
『この小娘ッ!』
ラーシュがズタズタとテオドールの前に出ると、ゲルーダの鎧の襟を掴んだ。
「スケベ!」
ゲルーダは持っていた槍の柄でラーシュの手の甲をパンッ!と叩いた。
『痛ててて』
「よく考えろ! 歩けばその距離はいかばかりか? その間の食べ物は? もうドロテアは当分の間、、、いや、もう来ないであろう。さすればこの城は私たちの物だ。 食糧もたっぷりある」
『お前にはわからんのだろう? 俺たちは家族のもとに戻りたいのだ! して、そのヨーセスという者が俺たちの女房を匿っているというのなら、さっさと出してくれ!』
「おい!新入り! ラーシュとか言ったな! よく考えてみろ! そんなことをして我が家に戻れば、ドロテアの思う壺であろう? またお前の妻は魔女狩りに遭い、お前はドロテアの欲を満たすためにどこぞの監獄にでも収監されるのだ。欲を満たすのであれば、イブレートの亡霊が出るような城にこだわる必要もあるまい」
「そうだよ!また人目につかない場所にでも入れられちまうのさッ」
ゲルーダの横でセシーリアが言った。
「よいか、もうこの城の鍵は我らの手中。しばらくはこの城を満喫でもすることだ。 明日の夕飯は御馳走を持って来てやるよ。解放祝いだ」
「ところで、お前らはどこからその飯を調達して来てるんだい? この辺りには草がちょろっと生えているだけだ」
テオドールがゲルーダに尋ねた。
ゲルーダはテオドールの頭を指差した。
「なんだい?俺の頭がどうかしたかい?」
「ハハハッ!違う!違う! その先だ! この北にマーゲロイという島がある。そこから毎日な、船で輸送しているのだ」
「え、島から? 毎日?わざわざ?」
「そうだ!お前らのためにな!」
「ドロテアの命令だろ? 現ナマ貰って」
「そうだ。貰ってる。しかし私たちはそうまでしてもここを離れたくないのだ。お前らが我が家に帰りたいのと同じこと。なにしろ目の前に我が家があるのに玄関の扉を開けることすら出来なかったのだからな」
ゲルーダは城の天守を見上げた。
「しかし、ようやくドロテアを追い出した。開いたのだ」
『なんかさ、お前ら戦争でも起こして奪い獲った風情だけど、たまたま奴らが落として行った鍵を拾っただけだろ? かっこよく決めてるけどさ』
「ま、そういうことだ。ハハッ!とにかく敵は亡霊を恐れて逃げたのだ。鍵をおいてな。しばらくは敵も来ることはない。安心して過ごされよ」
「ゲルーダ様。あのぅ」
セシーリアが、ゲルーダの肩をポンと叩いた。
「なんだ?」
「まだいますよ。敵が」
「誰?」
「表の小屋に」
「あっ!」
「ミカル達が縛られたままで」
※前話・第127~「イブレートの御霊は何処に」に挿絵掲載しました。
宜しかったら是非ご覧ください。
※ワクチンの熱が下がったので投稿しました!
挿絵は昨日描いて置きました。(笑)




