127~イブレートの御霊は何処に
「爺様。バルウというお方は、そんなにもイブレートを慕っていたのですか?」
「間違いございません。これも我らバルウ家の言い伝えではございますが、イブレート侯爵様の家紋。蟹でございますね?」
「俺も知らなかったのですよ。マウリッツの城内には幾度かドロテアのお供として行ったことはあるのですが、カニの物など一つも目にはしなかった」
「それはそうでありましょう。イブレート王国の城を分捕ったのであります。その家紋など引きづり出され破壊するのは当然のことでしょう。一つとして残さず、そして消し去る」
「なるほど。だから見た事がなかったのだ」
「バルウという我が祖先。どれほどにイブレート様を慕っていたか。それは心底は測れませんが、表に出ているでありましょう?」
「ん?表とは?」
「槍の二刀使いということであります。それはイブレートの蟹。蟹の家紋通りに自らの武闘をそこに見出したことです。その防具たるや甲羅の如し、赤や黒、黄色。まるで強靭な蟹人間」
「カニ人間? 黄色ってなんでしたっけ?」
「蟹みその色でございましょう。みそと言われるくらいですから、脳みそも優れていたかと」
「あれは中腸線」
「チュウチョウセン?」
「内臓のことですよ」
「ヨーセスさま。さすがイブレート侯爵様の血を継いでいらっしゃいます。その方にもお詳しい」
「バルウという騎士。爺様の祖先であり俺の祖先の参謀。だいたいの事はわかりました。その節はという事で頭をお下げ致します」
「いえいえこちらこそ、大変お世話になりました」
「で、そのぅ。俺のご先祖。皇帝イブレートはどうしたのでしょう。マウリッツ城の大広間で矢に下ったまでは聞いておりますが」
「口に出してもよろしいのですか?」
「なんなりと」
「イブレート様の胸に刺さった矢を引き抜いたラーシュ一族は、その場でその首をカッ切った」
「ゲッ!」
「して、その遺体は、切られた首とともに十字に掛けられ、この町はもちろん、ベルゲンの港まで引き回したそうであります。ラーシュ公爵は北の皇帝を討ったことを誇らしげに自慢し、下野からの解放を願ったのでしょう。しかしながらこの寒い国でもですね、その間の遺体晒しは腐りと悪臭を放った。もはやそれがイブレートであろうがトナカイの腐肉であろうが市民にはどうでも良く、ただただ気味悪がられただけ。ラーシュが遺体を持ってやって来ると聞いたその先々の市民は、玄関の扉を閉め切って、通り過ぎるのを窓から覗いていたそうであります。まるで首と胴体がバラバラの操り人形の様であったとか」
「で、結局その御体は?」
「はい、この港町に収棺されたそうでございます」
「どこに?」
「本当にあるのかないのかわからないのですが、、、田舎の農夫ですので街のほうにはさっぱりでして」
「だろうね」
「なにやら港からヘルゲの館の中程。その地下に牢があるとかで、その中の棺の一つにイブレート様の遺骨が」
「え~! それ俺の店の地下じゃん! 、、、燃えちゃったかもじゃん!!」
画・童晶
※二回目ワクチンが夕方に終わりました。
投稿が遅れましたが、熱が出ない内にと執筆致しました。
いつもお読みいただきありがとうございます。




