126~バㇽウ家に伝わる話
「時の王に刃向かったラーシュは、公爵という大そうな身分ながら下野したのであります」
「あの農夫も、上下の見境ない奴だ、、、」
「ラーシュ公爵を慕う部下は数十人。その家族らと共にこの半島の先にジプシーのように現れたのです。その頃のマウリッツと言えば栄華を極めておりました。北の果てでありながら、膨れ上がる人口、行き交う行商という名の旅人。宝物庫やエスキモーを使ったたわわな食糧確保。
下野したラーシュ公爵は自分より身分の低い侯爵という身でありながら、北の皇帝と呼ばれるイブレートにいささかの妬きもちを妬いておったようであります」
「なるほどっ」
「ただラーシュ一族は、彼にくっついて来るような奴らでございます。剛腕の強者揃い。もちろんラーシュ公爵もその中の精鋭でございました。王の下で働いたいわゆる軍隊長みたいな奴です」
「そういえば、農夫のラーシュも筋骨隆々。大柄で逞しい」
「打って出たのですよ。真昼の隙を狙って。マウリッツに」
「しかしいくらなんでも、そんな人数では襲撃したとしても逆襲を喰らうのではないか?」
「待ったのです」
「待った?」
「マウリッツの民は、いわゆる平和ボケをしておりました」
「で夜襲?」
「いえ、真昼間」
「昼間?」
「彼の地の白熊や大鹿は夜な夜な現れて食糧を漁る。民は動物に警戒していた。だからその意味でも夜はガードが堅い。のんべんだらりの昼時を狙ったのです」
「しかしいくらなんでも、数百人もいないのでは?」
「待ったというのはそこです。日中暖かい空気が上に昇り始め、地上に冷たい空気が入り込むと陽炎と言いますか、蜃気楼と言いますか。海からの照り返しがナナカマドの木に跳ね返り、その地上の靄にあらゆる物を映し出します」
「ほう、面白い」
「そのナナカマドの下に10人兵が立つと、蜃気楼の影にはその10倍。100人の兵が現れる」
「100人なら、1000人か、、、」
「しかも遠近感さながらにその兵の影は突如目の前に」
「それは恐ろしい!」
「その陽炎に映し出されることを知っていたラーシュ公爵は、わざと赤や緑、銀金に青。華やかな防具と衣装を身に纏っていたそうであります。誠煌びやかな海賊の装具であったようです」
「荘厳な軍隊が攻めて来たように見せかけるためだね?」
「それを見た武器を持たないマウリッツの民は、一目散にてんでバラバラ逃げ出した。陽炎に乗った矢は10本が100本に。降り注ぐように感じたでありましょう」
「それで真昼のその時を待った」
「こういう作戦は軍を率いている者には、当たり前のことでございます」
「で?」
「瞬く間に、いとも簡単に城に踏み入り、、、イブレートに矢を。駆けつけたのは我が祖先バルウのみ。数矢の槍で敵兵を突いたのですが、敵の矢が右ひじにグサリ。両刀使いは両手があっての名手。左の槍で威嚇しながら城から逃げ出したそうであります」
「それは本当ですか?」
「わたしだって見た事はございません。バルウ家に伝来伝わって来たお話でございます」
※第125話(前話)に挿絵掲載致しました!
※明日の投稿ですが、明日夕方コロナワクチン2回目接種の為、投稿が遅れるか、出来ないおそれがございます。 その後もし副反応の高熱等出ましたら数日お休みを頂きます事お許しくださいませ。
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