125~西のヘラジカ
「ヨーセス殿はここから西に向かったことがありますか?」
「いえ、ここに来るのも初めての事。この先は?」
「地図を見た事がないのですか? 二泊三泊歩けばまた海。 この陸は入り組んでいるでありましょう? 海であります。 ただ港などはもちろんございませんよ。 海沿いを歩けば、なだらかな浜と崖の海が入れ替わり立ち代わりであります。そこにタリエ侯爵といえ、もちろんヘルゲといえ知らぬ部族が住んでおります。その崖の上には一塔の見晴らしがありまして、何者かが通り過ぎる船をいつも見張っております」
「知らなかった、、、爺様は行ったことが? それがなにかバルウと関係が?」
「わたしも知らなかったのですが、ペトラに聞いたのでありますよ」
「は?あのペトラがなぜ? 召使いの婆さんだよ」
「だから先ほど言いましたように、ペトラの姉様は海賊。海を渡り歩いていればわかること」
「ペトラの姉様って、どこぞの海賊なのですか?」
「北東バルデのエスキモーの血を引く海賊」
「まさか、ペトラの姉様というのは、、、魔女のアグニア?」
「えっ!ヨーセス殿!アグニアをご存じかっ!」
「はい、もちろんのこと」
「わかりました。そこまで知っておられるのであらば。 ではお話し致しましょう。アデリーヌに聞かれてもマズいのでな。よろしいですか、もう少しこちらに耳をお傾けくださいまし」
そう言われたヨーセスは、座っていた椅子の股の辺りをクイとテーブルに寄せると、右耳を爺様に傾けた。
「なぜ、アデリーヌがあんなに遠い漁村の男と知り合えたのかおわかりになられますか?」
「そういえば」
「ペトラがアグニアに紹介しバルデの漁村の男とくっつけたというわけでして」
「ああ、それでラーシュと。漁村には漁村だが、ラーシュはそれより小高い山の上の農夫」
「まあ、ここにいても一度は母親が魔女とレッテルを貼られた娘。遠い地で誰もその遡上を知る者がおらん方がよろしいかとも思いまして」
「なるほどっ」
「しかしそれはそれ。ヨーセス殿もっと近くに」
「はい」
「200年前にマウリッツの城を襲った海賊」
「爺様。話が飛んでますよ」
「飛んではおりません。実は海賊というよりも仕掛けられた戦争であったようなのであります」
「戦争? いきなり攻撃を食らわして民までも殺し、宝を盗んだ奴らですよ!」
「お声が大きい。お静かに。 で海賊であれば盗めばその利を売るために、次の航海に出向くはず。そのままマウリッツの城に居座ったということは占領」
「確かに」
「それは海賊では無く、それを装った一国の兵達」
「その末裔が?まさか?」
「この遠く裏手の海に住んでいる部族」
「名はわかりますか? あ、得体が知れぬのか、、?」
「小さいながらもその国を率いていたのは、西のヘラジカと呼ばれた、、、」
「西のヘラジカ?」
「ラーシュ公爵にてございます」
※第84話~「島を出た兄妹・13と7の意味」に風景画を掲載致しました。
宜しかったら是非ご覧ください。




