124~騎士バルウは混血
「マウリッツの城から持って来た槍は2本?」
「そうです。その2本を杖代わりにして。あちこちの浜の小屋で寝泊まりを繰り返しながら、この町へと辿り着いたらしいのですが」
「爺様。昔のことがなぜそんなに事細かに?」
「マウリッツからここに向かうまでの浜小屋の屋根石や壁に、バルウの書いた文字が記されているようでございます」
「なにを書いたんでしょう? それにそれがなぜバルウ殿のものと?」
「血と槍であります。丸太の壁には血で。石造りの壁はその槍の刃先で堀り。内容まではわたしも知りませんがその文字がマウリッツの言の葉とネネツの言の葉の混在」
「両方?それを誰から聞いたのですか?」
「ここに来たネネツの者です」
「ネネツ。マウリッツゆかりのエスキモーですね?」
「やはり、ヨーセス様はイブレート様ですね。ネネツをご存じとは」
「ネネツがここに?」
「あなた様は街に住んでおられ、ヘルゲにもお詳しい。ではペトラという召使いをご存じでは?」
「もちろん知っている」
「彼女はわたしと同じ歳。ネネツの民です」
「ペトラがぁ?」
「最初は互いに知らなかったのですが、彼女はヘルゲの食卓に出す新鮮な野菜や卵、芋などを探しておった。港や下町にはその船で運び込まれる干し肉や魚などはありましたが、芋は甲板の下で芽が出たり腐ったり、野菜はシナシナ。そこでわたしの家を探し当てた。それが初めての出会い」
「ヘルゲの家からかなりの距離だが」
「嘘か誠か、西風に乗って菜っ葉の煮た匂いがして来たといっておりましたよ。ハハッ」
「では、バルウの浜小屋の文字というのをペトラから聞いたということですか?」
「そうです。彼女の姉はこの先の北東の漁師町に住んでいて、、、海賊で生計を立てていると抜かしていきおった。我らの祖先が海賊に襲われたマウリッツの民ということも知らずに。ハハッ」
「では、もう1本の槍は?」
「それがですね。そのペトラがうちの鶏の卵を貰いに来た時に、庭に産み落とした卵を拾っておった所、物干しの【I-M】の文字を見つけてしまったのです。わたしもまさか彼女がそこまで知っているとは思いませんでしたので」
(それで、ヘルゲの館の鍵を俺とヴィーゴに放り投げる時に【I-M】の文字の事を知っていた、、、)
「ここの物干しは両槍2本ありました」
「1本はどこへ?」
「そのペトラに」
「なぜ?」
「バルウはマウリッツとネネツの混血の騎士なのです」
「えっ」
「2本あれば1本はネネツの者に分け与えることは当然」
※第123話「イブレートと槍の使い手」に挿絵を掲載しました。
宜しかったら是非ご覧くださいませ。




