123~イブレートと槍の使い手
「爺様。それからもう一つ」
「なんだ?」
「表の物干し竿のことでありますが」
「ああ、そうだ。あれはヘルゲとドロテアの着ていた物。アデリーヌが街の床屋で奪ってきたハサミでチョッキンナと切ってな、、、」
「やっぱり。しかしお聞きしたいのはそのことではありません。あれは竿ではなく槍でありますね? しかもかなりの長さ。離れた敵でもエイッと突ける。錆びてはおりましたが、かなり古い時代の物」
「拾ったんだ」
「どこでです? こんな片田舎の農道や畑に落ちているような物ではありません」
「なぜそう思う?」
「剣先の逆。つまり持ち手の底」
「、、、」
「【I-M】」
「、、、」
「あれはマウリッツ。イブレートの紋章でありましょ?」
「、、、お前なぜそれを知っている」
「私はマーゲロイの者です」
「は!マーゲロイとな!」
「はい。北東バルデの更に北の島」
「待て待て、ではお前はマウリッツの民?」
「名はイブレート・ヨーセスといいます」
「イ、イ、イ、イブレートぉぉぉお~!」
ヨーセスはニコリと笑い返した。
「はい。イブレートの子孫にてございます」
農夫は立ち上がると、座っていた椅子を横にどかし、その場に膝をついてひれ伏した。
「これはこれは、イブレートさま。200年は過ぎているとはいえ、未だわたくしの心なる王。ご無礼を仕りました」
「まいったなぁ。爺様、顔を上げてください。それは到に昔の話。今ではこの町の平市民」
農夫は疑わなかった。
それはマーゲロイ島を知っている者、イブレートの紋章を知っている者などヘルゲとドロテア以外に市民は知らぬこと。疑う余地はなかった。
「ではお話いたしましょう」
「そういう言葉遣いはやめてください。さっきまでと同じように」
「あなたさまは、バルウという人物を知っておられますか?」
「バルウ? バルウ、、バルウ、、聞いた事がある。確かイブレートの側近であり参謀として名を馳せた?」
「名を馳せました!ハハッ!」
「それが?」
「海賊がマウリッツの城を襲ったその日」
「それをご存じで?」
「最後まで戦いを挑んだのがバルウ。2本槍の使い手。しかし敵は多勢。イブレートが矢に下るとヘイヘイのテイで逃げ出した。その槍を引きずりながらでございます。顔から足まで血だらけだったと聞いております」
「それで?」
「流れ着いたのがここ」
「この町?」
「いえ、ここであります。今ヨーセス殿が座っているこの場所」
「えっ!」
「わたしがあなた様に跪くのもおわかりになられましょう? わたしはバルウの末裔であります」
「ではあなたさまもイブレート家の?」
「血は違いますが、イブレート様に仕えていた身。そのようなものでございますよ」
【バルウ?】
※本日は2話(122話・123話)投稿しております。
前話、飛ばさぬようにお願いいたします。
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