121~全部チャラさっ
(あ、ペトラが玄関から出て行った)
ヘルゲとドロテアがキルケたちに歩み寄り、ペトラの家に背を向けた時であった。
召使いペトラは音も立てずに、スーッと家を出て行った。
気づいたのは笑いを堪えていたイワンだったが、この状況の様子が変だと思ったのか口に手をあてたまま黙っていた。
「で、お前らは何をしておるのだ?」
ヘルゲがキルケたちに訊ねた。
「いえ、昨日この先の乾物屋で火事がございまして、火はおさまったのですがその乾物屋と反物屋に頼まれまして今し方まで片付けを」
「そうです。昨日からずっとであります。もう服が煙臭くて」
「ああ知っている。煙が上がっているのがわしの家から見えたからな」
『は?』
気づいたのはドロテア。
『ん? おかしいじゃないか? 火を着けたのはどこぞの海賊どもであろう? なぜお前らは逃げなかったのだ?』
「あ、そうであった。その海賊たちはもう帰ったのかい?」
「?何のことです? それにこの間の者達はタリエ侯爵さまの使いの者でして」
イワンがすかさず言った。
「そいつらのことじゃない。わしは昨日、その煙を見て館から降りて来たんじゃ。そしたらなヨーセスと女風体の奴に出くわして、何やら海賊が街に火を着けたと」
「???(ヨーセスとアデリーヌか?)」
「でな、次はわしの館を襲撃に来ると。宝を強奪にな!」
3人は押し黙った。
誰がどう切り返すのか互いの目を見合った。
が、キルケがここぞとばかりに話出した。
「ヘルゲ殿~。そうなんでありますよ! ほれこの間のタリエ侯爵の使いとか言ってた奴ら」
「ほう、それが?」
「イワンは知らぬだけ。やつら実は海賊だったらしくて、金が払えぬのか取って返して街に火を放ったのであります」
「それを早く言わんか!じゃあ、金は?」
「0」
『はあ~? で奴らはどこに向かったのだ? 私の館かい?』
ドロテアが眉間にシワを寄せ、不安げに言った。
「いえいえ、それはぁ、、わかりません。なにしろ街はパニックになっておりまして」
「まだこの辺りにいるのか? その海賊どもは?」
ヘルゲがキルケに聞いた。
「え~とですね。今日の明け方のこと。一人でこっそり港に船を見に行ったのですが」
「なんだ?その海賊の船をか?」
「はい、すでに出航してしまったのか、それらしき船はございませんでした」
「行ったか、、、わしらの財産を全て積んで、、、行きおったかぁ、、、」
『まあ良い。とにかくペトラをこの家から引きずり出して、鍵を』
「わッかりましたぁ!」
イワンが大声で返事をした。
ヘルゲとドロテアはペトラの家の軒下に戻ると、大声でペトラの名を呼び続けた。
「お~い! ペトラ~! 出て来~い!」
「さっきペトラは出て行ったよ」
イワンが言った。
「え、そうなの?」
トールが答えた。
「あのさ、これで、俺たちが得体の知れない奴らに騙されたこと。勝手にヨーセスの店を開けて、品物を全部持って行かれたこと。全部チャラさ。火事のおかげだ。もうそんなことを問われなくて済みそうだ」
キルケが言った。
「海賊の仕業ってことだな」
「ああ」
※前話、第120話に挿絵掲載。
失敗作でしたが、載せました。動物描くの苦手なのです。




