120~ペトラのベランダから落ちた物干し
「昼間っからうるせいなぁ」
「この路地の奥だよ」
ペトラの家の脇を通りかかったのはキルケとイワン、それにトール。
乾物屋の親父と反物屋の女将に頼まれて火事の翌日も、その片付けの手伝いをしていた。
駄賃を貰った3人は昼飯にと、近くの焼き魚と焼貝を出す食堂に向かっていた。
「なんか、怒鳴り散らしてるな」
「ああ、男と女か?」
「あの格好は農奴だ」
「なにかもめ事でもあったんかな?」
3人が素通りしようとした時だった。
その家の扉がバタンと大きな音を立てると、二階のベランダにいた銀色のシャム猫が驚いたのか、手摺りから物干しの隅に飛び移った。
すると、その勢いは竿をガタと片方落とすと、干してあったエプロンを西風が煽り、ベランダの手摺りの隙間から、ドタンバタと回転しながらキルケの頭の上に落下した。
「痛ッて~!」
キルケはそのエプロンに包まれるとそのまま腰を落として蹲った。
「絡まっちまったじゃねえか~!」
「キルケ、瘤ができてる。ハハッ!」
トールがキルケの頭からそのエプロンを取り去ると、剥いだその物干し竿を右手に持ち、エンヤコラと投げ返そうと振り被った。
「あれあれあれ? おい、トールちょっと待てぇ」
「ん?なんだ?どうした?」
キルケは立ち上がると、物干し竿の先に回り込んだ。
「これ、竿じゃないよ。槍かな? 見てみろよ、刃先が付いてる。錆び切っちまってるけど」
竿の反対側にいたイワン。
「トール、そのままその態勢で持ってて、、、キルケ、ちょっとこっち来てみろよ」
「どうした?」
「こっち側の竿の先」
【W-I】
「物干しの竿にこんなの付けるかい? 厚い銀のキャップに刻印」
「これが槍だとすると、竿の底は持ち手の方だ」
「なんでこんなボロ屋のベランダから?」
「かなり古い槍だね」
キルケとイワンが腕組みをして頭を捻ると、トールがその竿をクルリと回した。
「もしかしたら、【I-M】かもね?」
「ま、どっちにしろわからん」
『おいおい!キルケとイワン!それにトールじゃないかぁ!』
その家の玄関で騒いでいた農奴らしき2人が、トボトボと親しげに近寄って来た。
「キルケ、誰あれ?」
「トール、知ってる?」
「あんな農奴に知り合いなんかいない」
キョトンとした3人であったが、近づいて来た2人の顔に驚いた。
「あ~!ヘルゲ男爵殿にドロテアさまですかぁ!」
「どうしたのですか?その頭にその農着はぁ?」
『そんなことはどうでもいい。この家からペトラを引っ張り出しておくれ』
ドロテアが言った。
「鍵が無いと家に入れんのだ。ペトラが持っておるのじゃ」
ヘルゲが言った。
あまりにも変わり果てたその2人の面。
イワンがキルケとトールの陰に隠れ、口に手を当ててクスクスと笑った。
※第109話~「小屋の爺さん・モグラの夫人」に挿絵を掲載。
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