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119/1501

119~ペトラを身体検査せよ

 『お~い!ペトラはいるかい! ペトラ~!ドロテアじゃ~!』


ドンドン!!


「はいはい、少しお待ちください。今開けます」


 ヘルゲとドロテアは、農着を着たまま農夫と農婦を装うと、しらばっくれて我が家の館の前を通り過ぎた。一夜明け海賊は到に立ち去ったからなのだろうか、午後の日差しが何事もなかったかのように、そのオレンジの屋根を静かに照らしていた。

 屋根には新しい鳥の糞が積もっていた。


 しかし用心深いヘルゲとドロテア。庭の花壇を横切ると港町の住宅街に向かった。

商店街の床屋。その手前の路地を右手に入ると、一人暮らしのペトラが住む二階建ての集合住宅があった。


その角の二階にペトラのメイドエプロンが、ユラユラと風に靡いて干してあった。


ドロテアの声を聞いたペトラ。

「おやおや、お早いお帰りで」

慌てて薄いべニアの戸を開けた。


「ん?」

目の前にいた2人。

ペトラはその前で飛び跳ねると、頭が邪魔だとばかりに両手で2人を払い退けた。


「あれ?今確かドロテアの声が?」

キョロキョロと路地の右と左を見渡した。


 『何をやっておる? ペトラ』

ドロテアがそう言うと、ヘルゲがペトラの首根っこを引っ張った。

「痛いてててて」


 『私がドロテアで、こいつがヘルゲであろうがっ!』


ペトラはクルリと首を回しジロと2人の顔を見た。

「あっ! えっ! お2人ともどうなされたのですか?! その頭にその格好。ただの通りすがりの農民かと、、、」


 『それで私らを、払い退けた。と。』

「だって、、、」


 『お前はなにかい、私たちのいない所では、ドロテアと呼び捨てにしているようじゃな?』

「私、今そう言いました?」

 『言った』

「気づきませんで」

 『気づくとか気づかないの問題ではないな』

「失礼をば」


 『ま、そんな事よりもだ。鍵を返してくれ。玄関の鍵だ。今な、館の前を通って来たんだが、もう海賊どもは帰ったようだ。盗まれた物は仕方ないが、家に入れんことにはどうしようもない。逃げた時、最後に出たのはお前。鍵。掛けてきただろ?』


「はて? わたくし閉めましたっけ?」

 「ハハッ、バカを言うな。わしはこの目でシカと見たぞ。テーブルの上に置いてあった鍵。お前はそれを手にして最後に出た」

ヘルゲは言った。


「あ、思い出しましたわ。はいはい閉めました」

ペトラは着ていた服の至る所のポケットを叩いた。

「あれ?どうしましたっけ?」


 『は?無いのか?』

そう言うとドロテアは、ペトラの身体検査をしろとばかりにヘルゲを指差した。


 「え?わしが? こんな婆さんの?」

 『女好きの本領発揮だ』

 「わしには無理。若い女子おなごならいざ知らず」

 『歳の問題ではない!鍵を見つけろと言っておるんだ!』

 「お前がやればいいじゃないか?」


するとドロテアはヘルゲの耳元でつぶやいた。

 『あのな、小奴はエスキモーの魔女だ。触るとな、魔の気が移る。男なら魔女は移らぬ』

 

 「ほほう、なるほど。では。」

ヘルゲがペトラの体に向かって身を乗り出した。



「あれま?わたくし落としたのかしら? ヘルゲ殿やドロテアさまが慌てさせるからでございますよ!」

ペトラはヘルゲのお触りを嫌がったのか、薄い扉をバタと閉めた。


※第110話~「農夫とカニ女」に挿絵を入れました。

宜しかったら是非ご覧ください

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