117~竿の紋章
背の高いヨーセス。
物干しの先の玄関口が気になったのか、前に進むとその物干し竿に頭をぶつけた。
コ~ン!
物干し竿の片側が斜めにポンッと落ちた。掛かっていた山高帽が土の地面に落ちると、緩い風にクルクルと舞った。慌てたヨーセスはすぐさまその長い足を伸ばすと帽子の天辺を潰して、その行く手を止めた。
(あっぶね~)
ヨーセスは山高帽を手に取ると、落ちた物干し竿の底を掴み、支えていた台に乗せた。
目の前に飛び込んできたのはその底。丸い銀の噛ませの底。
【I-M】の刻印だった。
(え、なぜ?)
ヨーセスは落ちなかったもう一方の竿の柄の先を覗こうと反対側に廻った。
覗くまでもなかった。
柄の先は鏃のような赤く錆びついた刃先であった。
(これは竿じゃない。槍だ。長い槍。まさかイブレートの槍か?)
ヨーセスは山高帽をその刃に掛けると、三段だけの玄関の石階段を一跨ぎで上った。
コンコン!コンコン!
「ごめんくだされ!ごめんくだされ!」
ヨーセスはここがカニの化け物の家かと、恐る恐る扉を叩いた。
応答はなかった。
そっと扉を開けると、そこには誰もいない。
首をグルリと、部屋を見渡したヨーセス。
テーブルの上には大きな蟹の剥製らしき置物。
壁には小石を繋ぎ合わせて作った毛ガニを模った浮彫の型。
ここの主人が描いたのだろうか下手くそな蟹の絵が額に入れられ飾ってあった。
(やっぱり。カニ屋敷)
恐れをなしたヨーセス。玄関の扉を閉めて外に出ようとした時だった。
「おい!お前!そこでなにをしておる!」
「ぎゃ~! カニのお化け~!」
ヨーセスは飛び出した。
飛び出した拍子にまた物干しで頭を打った。
落ちた竿の柄を農夫がサッと手に取ると、その刃先を転んだヨーセスの顔に突きつけた。
斜めになった物干し竿。掛かっていた服が竿から流れ落ちると、ザザザとヨーセスの顔を覆った。
「わ~!やめて~! やめてくれ~! 殺さないでくれ~!」
農夫はヨーセスの顔を覆った黒いジャケットを足で踏みつけた。
ヨーセスは両手を広げてバタバタと暴れた。
「誰だと聞いておるんじゃぁ!」
「殺さないでくれ!俺はここの港町のヨーセスという者でございます!」
「ヨーセス? なんの用事だ? こんな荒れ地の人里離れた一軒家。お前のような若僧には用はないはずだが?」
竿の先の刃が、覆った服の上からチクリと当たった。
「いえいえ、この辺りにカニの化け物が出ていると聞き、、、」
「退治しにでも来たというのか? 一人で?」
「まあ、そんなような用件です」
「擦れ違わなかったか? ここに来るまでにそのカニの化け物とやらに」
「2人連れの奴らですか?」
「ああ、ヘルゲ蟹とドロテア蟹だ」
「は? やっぱりあの2人って!」
「まあ良い。なんの用事か、話を聞こう」
※第33話「城は美男子工場」に挿絵を掲載しました。
人形師ニルスとラーシュとの会話という事で、下手くそな操り人形を描いてみました。
ん~、納得できない拙い絵。




