115~一本道から来た2人
「アデリーヌはどこに行ってしまったんだろう? それにヘルゲとドロテア。どこまで逃げたんだろう? ペトラが言っていたカニの通り魔ってなんだ?」
ヘルゲの館の家探しをヴィーゴと隠修士に任せたヨーセスは、逃げ出したアデリーヌの行方を追っていた。
ただヘルゲとドロテアには、まだ戻らない方が身のためと言えばいいだけ。逃げた場所など余り気にはしていなかった。
「この西側の一本道って来た事がないな。薪を取り出すのは東の山だし、用事があるのはいつも港からヘルゲの館まで。どうなっているんだろう? 見通しはいいけど、何もないな。へたすりゃこっちが先に見つかっちまう」
道沿いの所々に太く大きな木が生えてはいるが、その道が何のためにあるのか、人の行き来の全くない土と砂利の道であった。
数十分も歩くと、遥か先に2つの人影のようなものが揺れた。
(あ、人だ!)
人影はだいぶ先であったが、ヨーセスはその道沿いの太い木の幹の裏。身を隠した。
ヘルゲとドロテアなら身を隠す必要がない。心配して堂々と探しに来たと言えばいい。
問題はアデリーヌだった。
ヨーセスの姿を見たら、すぐにでも逃げてしまうんではないかと思った。
木の下に屈みこんだヨーセスは、2人が通り過ぎるのを息を途切れ途切れに待った。
(来る、来る、来る。誰だろう?2人連れだけどヘルゲとドロテアなら海賊を恐れているはず。こんなに早く戻るはずはないし)
まだ真上に昇っていない黄色い太陽が、その長い2人の影をヨーセスに詰めてきた。
目の前を横切った。
2人。
農民であった。
(農民だ。この先に畑でもあるんだろうか? 農家の家でも?)
通り過ぎた時であった。
2人の背中を見たヨーセス。
(あ~!こいつらだぁ!カニ野郎どもだ!)
汚れたマントのような農民着。その背中にはオレンジのカニが、でかでかと刺繍されていた。
(ペトラが言っていたのはこいつらだ! 隠れていてよかったぁ!)
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『ヘルゲ。本当に戻って大丈夫なのかい? まだ海賊達が私たちの家を襲っているんじゃないのかい? しかも私たちがいないとみれば居座りそうじゃないか?』
「ドロテア。わしらが今どんな格好をしてるか分かっているのか。農民の服にこの虎刈りのツンツン頭。昨日の農夫でさえわしを男爵とわからなかった」
『それは裸だったからだろ?』
「いや、この頭だ。それにこの服。このままうちの館の前を農民の振りをして通り過ぎるんだ」
『様子を見に戻るってことかい?』
「そう。わしらの髪を切り刻んだカニ女。それとこの服を置いていった農夫の爺。良い仕事をしてくれたじゃないか」
『私たちの変装を手助けしてくれたってことかい?』
「そういうことになる」
ペシッ!
ドロテアはまたヘルゲの頭を叩いた。
木の陰から2人を見送ったヨーセス。
(なんか、ドロテアみたいな叩き方。ヘルゲみたいな叩かれ方、、、)
※前話114~「イブレートの家紋」にまたまた挿絵を掲載。
宜しかったら覗いてみてくださいませ。




