113~マウリッツ城・部屋の扉
「ちょっと待て。ヴィーゴ」
「?」
「て事はだ。この扉は?」
「そうか!この【I-M】って鍵で開くってことは!」
「この扉はマウリッツ城のどこかの扉だ」
「よく見れば、確かにこの家には似つかわしくない。」
「壁は白塗りの土。屋根は薄っぺらい木造。しかしこの緑色に塗られた木の扉だけは、荘厳な厚み」
「一本の木をくり抜いたみたいだな」
ヴィーゴは掌でその鍵をジャラジャラ揺らすと、空を見上げた。
「俺さあ、見た気がするんだ」
「なにを?」
「マウリッツの城に入った時」
「あ、ドロテアのズロースを踏みつけて階段から転げ落ちた時のことかい?」
「ハハハッ!そう。その時、ラーシュという奴の部屋に入ったんだ」
「逃げた魔女。アデリーヌとやらの亭主だな?」
「そう、さっき家探ししながら話した奴。ドロテア好みの超美男子」
「それが?」
「ふとさ、今思い出したんだけど。そのラーシュの部屋だけ扉の色が違ったんだ」
「他の部屋は全部同じ色?」
オロクはヴィーゴに尋ねた。
「ああ、他の男どもの部屋は皆、橙色だったんだ。けど彼の部屋だけは黒光していた」
「なぜだろう?わざわざ」
「しかも、どの部屋にも鍵はついていないのさ。ま、全部イブレートの部屋だったわけだからね。普通の家の部屋割りみたいなもんさ」
「そうだろうな。自分の家の中。部屋ごとには鍵は付けぬさ」
「けどさ、もしもだよ。その部屋の扉がこのヘルゲの館の玄関扉なら、その部屋だけ鍵が付いていたということになるよ」
「、、、その部屋になにかあるのか?」
「そんなことドロテアは気づかないだろ。ただ、たまたま鍵の付いていたその扉を、これは好都合と頂いたんじゃないかな?」
「お前はその部屋の場所を知っているということかい?」
「扉の色が違うんだ。知らなくたって誰でもすぐにわかるというもんさっ」
「ほう、それは面白いじゃないか。行ってみるか? マウリッツに。お前、確かドロテアから城壁の鍵を持たされてるだろ? 容易いじゃないか!」
「それがさぁ、落として来ちゃったんだよ、、、」
「どこに?」
「城の中」
「はぁ~?」
「だってさっ!イブレートの亡霊が出たんだよッ!そりゃあ驚くってもんさッ! 慌てて城壁の外に飛び出した時には、、、」
「すぐ戻って取りに行けば良かったじゃないか?」
「いや、気づいたのがここに戻って来てから」
「ばか!じゃあ、城の男どもが牛耳ってしまうじゃないか!?」
「しかも」
「しかも?なんだ?」
「東洋のお宝ってのも落とした。13点ほど」
「宝はどうせドロテアが男どもにくれてやる贈り物だろ? そんな物はいいよ! マウリッツの庭は低い芝が薄っすら生えているだけだろ?」
「そう」
「じゃ、すぐに見つかってしまうよ。そうなったら奴らは出入り自由じゃないか!」
「いいじゃん。いい事をした。けどさ、外鍵の丸太は掛けて来たから」
「お前は知らぬかもしれんが、、、ゲルーダってのがいるのさ」




