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112/1501

112~オロクとヴィーゴ・鍵の裏側

「ないな」

 「ない」

「ひとつもない」

ヘルゲの館に侵入したヴィーゴと隠修士のオロクだった。


「この鏡台の前に散らかした指輪や髪飾り。どこにも【I-M】なんて記してないよ」

 「こっちの高そうな椅子もベッドにもない」


「オロク。台所の食器はどうだい?」

 オロクはその棚からコップや皿を取り出し、表裏おもてうらと眺めてみたが、それらはイブレートのお宝とは違った。

 

 「ヴィーゴ。なにか違うんだよ。この家の中。そのぅ、何て言うかぁ、様式がさ」

「様式?」

 「ああ、200年も前の形の物が無いと言うか、それを感じさせてくれる物がない」

「そう言えばなんとなく。どこか別な場所に隠してあるのかなぁ」

 

 「隠すったって、ここには他に薪小屋しかないぞ」

「そうだよなあ。あそこは俺たちが始終薪を割っている所。そんな物はないよ」

 「この館に入ったことは?」

「今日が初めて。ヨーセスすら入れてもらえてないはずさっ」


 「じゃ、ヘルゲとドロテアしか、、、」

「ん~ん。いやペトラは毎日出入りしている」

 「料理番だな。しかしあの婆さんは何も知らないだろ?」


 オロクはベッドの下、大きな棚の裏、至る所の引き出しを開けてみたが、【I-M】という文字はさっぱし見つからなかった。


「棚から出て来るのはドロテアのズロースばかりだ」


 


 「なあ、ヴィーゴ。もしかするとだが」

「心当たりでも?」

 「いや、推測。マウリッツの宝はタリエ侯爵の(もと)にあるんじゃないか?」

「え、なぜ?なぜそう思う?」


 「考えてもみろよ。マウリッツの宝は別格の優れ物だ。文字を気にせず一つでもタリエに貢いでみろよ。きっとタリエならこの文字に気づくはず。なんぞや?と」

「ほう」


 「そうなるとだ。次からはこの文字の入った物を欲しがるはず。ヘルゲとドロテアはタリエにこの町を守ってもらっているのさ。出せと言われれば出さないわけにはいかんさ」

「なるほど。ゆえにここには無いということか?」


 「ああ、この部屋をグルっと見渡しても気配すら無い。イブレートの宝はそれほど異彩を放つのだ」


「じゃ、あきらめるか。ヨーセスからは他の宝には手をつけるなって言われてるしさ」

 「これなら、誰も荒らさなかったってことで済む。鍵だけ閉めて料理番のぅ、、、」

「ペトラ。ペトラに鍵を返そう。何事も無かったってことだ」


 ヴィーゴは表に出ると、ポケットから玄関扉の鍵を取り出した。


 その鍵穴に刺した。

開けた時とはもちろんのこと逆に回した。


 ガッチャ

鍵の持ち手が裏側になった。


「おい!オロク!」

 「は?」

「この鍵!【I-M】って彫られているッ!」

 「えっ!なんだってぇ!」

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