11~浜辺の小屋
「ラーシュ。今夜はここだ。ここに泊まる」
西からの冷たい風。夕刻ともなるとなおさらだ。少しせり上がった浜木綿が咲く浜辺。
そこにあったのは厚い板を横に釘打ちした木造の掘っ立て小屋。
中に入ればきっと夕日がその隙間から差し込んでいるであろう小屋だ。
屋根は吹き飛ばされぬようにか置き石がしてあった。
『随分と手荒な造りだが大丈夫か?』
「漁師の物置小屋みたいなもんさっ。ま、一晩凌げれば良い」
今にも外れそうな木戸を開けると、中は藁と黒炭が積んであるだけだった。掃除はされているようで、ラーシュが思ったより居心地の良さそうな小屋であった。
『これは本当に漁師小屋かい? 魚の生臭い臭いが全くしないな。あの婆さんの家の方がよっぽど臭かった』
「アグニアの家か? ハハッ! まあ良い。座れ。その藁を背もたれにするとゆっくりできるぞ」
道中の疲れか、4人はしばらく黙って藁に座った。
『ところでお前らは何という名だ? 俺の名は知っているのに、俺がお前らを知らないのは、げせん』
「あ~だめだめ、俺達は名は名乗れんのだ。ま、そういう仕事をしているということだ」
『確かに悪さばかりしておるんだろうからな。ハハハッ』
「そんなことより、寒いだろう? じきに火を持ってくる」
『誰が?』
「ここの村の奴だ。きっと魚も調達しとるはず。表の馬が括りつけてあるのを見つけたら来るはずだ。腹も減ったろ?」
『いや、お腹は空いてない。食べる欲など消え失せてるわ。あれからほとんど何も口にしてはおらん。アデリーヌが戻って来るまでは空かんだろ』
ドンドン!
「ミカル殿~!ミカル殿はいらっしゃいますか~?!」
「あっ、あのバカ!俺の名前を口にしおって!」
『ほ~、バレちまったな。ミカルさん』
「入れ!良いから入れ!」
「あれま、ミカル殿。ご機嫌でも悪ぅございましたか?」
「なんだ、爺さんその格好は?」
「外は寒くて凍えます。目だけぎょろりのホッ被り。お~さむ!」
「もう良い。いいから火を」
「サバとニシンであります。よ~く油がのっておりますよ」
「先に火だ。寒くてかなわん」
「はいはい、わかりました」
「火を熾したらサッサと出て行け」
背の曲がった初老の男は床の藁を集め、ふ~ふ~と火を点けると炭にも火がついた。
炎が上がるのを確認するとホッとした顔でミカルの方を振り向いた。
「では、ごゆっくり。すぐに暖かくなると思いますが」
「あ、おい、待て。駄賃だ。」
「あ、これはこれは。誠に有難き。あれ?こんなにも頂ける?」
「ドロテアさまからだ。暗くならんうちに帰れ」
「へいへい。ではまた」
そう言うと初老の男はそそくさと小屋をあとにした。
『誰なんだい?あいつは?こんな所に人が住んでいるのかい?』
「頭を見たかい?」
『ああ、錆びた鉄のような冑』
「海の盗っ人だ」
『泥棒ってことかい?』
「フンっ。海賊ってやつさ」
『どこかで聞いたことのある声のようだったが』
「年寄りの凍え声など、皆一緒だ。ハハッ」
※「3~ヘルゲの館」に絵を掲載しました。(この回は11話)
ヘルゲの家のイメージ画。色鉛筆でシャシャと描いたデッサン画。
拙い絵ですが、イメージという事でお許しください。
宜しかったらご覧になってみてください。あくまでイメージですよ。あくまで。




