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106/1501

106~栗毛の髪

「いやぁ。ひどい火事だ。うちの店にも襲い掛かる勢いだった、、、あれ?客人。そこでなにを寝転がっている? パンツ一丁にマント姿」


 「店主!お前が乾物屋が火事だと留守を空けるからだ!!」

床屋の客人はマントをパタパタ叩きながら、ゆっくりと立ち上がった。

 「まったくぅ!」


「どうしたというのだ?」


 「どうしたもこうしたもあるかい!お前が留守をしている間に若い娘が入って来て、そこのハサミを取り出してだなあ、自分の髪をバサバサと切りよった」


「で客人、なぜに転んでいる?」

 「ビックリしたからだ!」

「それだけ?」

 「お前はその女と会ってないからわからんのだ!それはそれは恐ろしい悪魔のような目つき。それにぃ」

「それに?」

 「一人芝居をしとった」

「ほう、芝居?」


 「ああ、『切るぞ!』「きゃ~!やめて~!」一人二役ッ!なにかもう一人乗り移ったようなぁ、、、」

「、、、誰か乗り移った?」

 

 「知らんはわしは!」

「そのマントに付いてる髪。床に落ちているたわわな髪がそうかい? その女のもの?」

 「そうだッ」


店主は床の上に落ちていた髪を束ねて手に取った。

「淡い茶色、、、馬のたてがみのような綺麗な栗毛だ」

 「ああ、顔も美しかったわいッ」




店主はその髪の束を握ると、またまた店の外に飛び出した。


 「おーい!店主ぅ~!どこへ行くぅ? わしはまだ髪切りの途中じゃろうてぇ~!」

客人はうなだれて、また椅子に腰かけた。

パンツの奥にまで入った女の髪の毛。

股間に刺さるチクチク。

腰を浮かせてボリボリと掻いた。


挿絵(By みてみん)

ーーーーーーーーーー


 栗毛色の髪を握った床屋の店主。

まだいぶされたままの乾物屋の店の前に向かった。


 乾物屋の主人は番犬を背もたれに、向かいの石畳みの上に座り込んでいた。

その横ではキルケとイワン、それにトールが煙の行方を追っていた。



「おい!乾物屋ぁ!この栗毛の髪に見覚えはあるかい?」


 「ん?」

乾物屋は首を(ひねった。

 「わからん」


「匂いを嗅いでみろよ」

床屋は乾物屋の鼻先にその髪を当てた。


 ハックショ~ン!

 「近づけ過ぎだわい! ん~、どれどれ」


「臭うだろう?」

 「煙を通り越して火の臭いすらする」



覗き込んだキルケ。

「あれ?この髪の色。あの女。アデリーヌだ。独特の色だからな」


 「俺の可愛いこの犬にキスをしていった魔術使いの女のことかい?」


「ああ、たぶん。それに、そんなに強烈に臭う煙臭さ。さっきまでこの店にいたということさ」

 

 

「火を着けた女の髪? 客人が言うには狂ったように一人芝居を繰り返し、バサバサと髪を切り刻んでいったと」

床屋の主人が言った。




「切ったんだ、、、」

キルケは流れていく淡くなった煙を見つめて言った。


気がつくと、隠修士たちの姿も消えていた。

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