104~ネネツの血・極寒のアミニズム
【氷上の魔女】
画・童晶
ネネツ。
マウリッツの街からバレンツの海を北東に渡る極寒の地。タイガやツンドラと呼ばれる地域。
彼らネネツの民はトナカイとともに生きていた。
それらの全て。
トナカイにソリを曳かせ、マイナス50度の地の服はトナカイの毛皮や衣服。ボタンや飾りはその角や骨。
住む家は、すなわちチュームと呼ばれるテント。それはトナカイの皮製。そこに20人の大家族が寝泊まりをする。なぜテントなのか? それはトナカイを放牧するという遊牧民。日々の移動距離は、トナカイとともに10キロ。
他のキャラバンと区別する為、そのトナカイの耳には切れ目を入れた。
家族の誰かが病を起こすと、念術とともにその角を削った粉薬を飲み込ませた。
主食はトナカイの生肉。
すべてはトナカイとともに生きていた。
信じるものは自然という神であった。
極寒の地での厳しい暮らしは、空の神ヌンと地下の神ンナとの闘い。
その勝ち負けによって季節が変わるのだ。
善の神ヌンが勝てば夏。悪の神ンナが勝てば冬だ。
ネネツという部族はこのマウリッツから南西の、成長著しい文明とは懸け離れた部族であった。
悪魔呼ばわりされた彼らをいとも簡単に受け入れたのは皇帝イブレートであった。
もちろんイブレートが信じていたのはキリストという神。
この地方に置いてその信仰を疑う者は皆無であった。
しかし、イブレートは興味を持った。
言い当てられる天候。風や波の流れ。動物的なネネツの勘は類を見なかった。
寒い地域の街バルデでありながら、イブレートの城下が栄えたのは彼らのおかげ。
それは農業にも漁業にも繁栄をもたらした。
商人達に置いては、トナカイの毛皮の取引が、地方から訪れる行商人の目に留まり、高値で売買をするに至った。
他の地域では宗教上も生活習慣的にも受け入れられなかったネネツだったが、イブレートのおかげにより、ここを市場に幾度も訪れた。
その行き来は必然的に、時代の流れ。次第に定住や婚儀を結ぶ者を生み出した。
しかし華やかなネネツの暮らしは、海賊達によるマウリッツの襲撃とともに、その行き場を失った。
頼みの綱のイブレートはあっけなく城の大広間で、その寝込みを襲われた。
ところが、イブレートが殺されてから200年。
ネネツの民とマウリッツの民の交流は、マーゲロイの島で生き続けた。
時代はその流れとともに、移動や婚姻を繰り返し、今ではネネツの血はヘルゲの町のみならず、ベルゲンの地にまで至っていた。
それが生み出した姉アグニアと妹ペトラであった。
※71話~「朝飯に拍手喝采」にまたまた挿絵を掲載しました。
宜しかったら是非ご覧ください。
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