101~刻印・【I-M】
『もういいよ。取っていい。もう燻ぶった煙もここまでは来ない』
「ひえ~、しっかし腰の辺りがパッツンパッツン。この口元の反物なんかより服を脱ぎたいよぅ」
『ハハッ! けど似合っているよ。お上品な内股歩きはお見事。口の髭さえなければ若い女だ」
「髭は仕方ないよ。ヨーセスだってそうじゃないか。マウリッツの往復、剃ることなんか出来なかったし」
『ドロテアの首の辺りに髭を当てると、うっふ~んって声だしちゃうしな。ハハハッ』
「着替えていいかい?」
それはヴィーゴ。
フレアースカートのドレス。前ボタンを外すと、胸をつくるのに押し込めていたプールポワンと帽子を取り出した。
「まさか、こんなことをさせられるとは」
『囮みたいなもんさ。ヘルゲはさ、女と見るや話半分。お前の方に気を取られていただろ?』
「ああ、お前の話を聞きながら、俺の足元から頭の先まで馬の舌で舐められているようだった」
『馬の舌は面白い!ハハッ!』
「だから、いつバレるかと思ってさ」
『けど「して、この女は?」って言ってただろ? 大丈夫さ、わかっちゃいない』
「で、今から?」
『ああ、たぶん。ヘルゲは逃げ出すよ。もちろんドロテアもさ』
「じゃ、館は空っぽ?」
『そう、そこでだが。実はさ、あいつらの館はマウリッツの宝でいっぱいだ。昔運び込んだ調度品や装飾品でいっぱいさ。いい物ばかりを懐に仕舞い込みやがった』
「運び込んだというか、奴らこそ盗人だ」
『その通~り! この隙にそれを全て奪い返す。』
「それがイブレートの宝? けどマウリッツの物以外にも宝があるんだろ? どうやって見分ける?」
『イブレートの宝には全て通し番号が付いている。家具にも布にも装飾品にも全て』
「番号だけでは、、、そんな物付いてる物なんか沢山あるよ。だったら館の物全部持ってっちまった方が早いよ」
『ダメ。それじゃあただの盗人になる。名目が必要。俺たちの物を取り返しに来たという名目』
「そうかもしれないけど、番号だけでは確かじゃない物まで奪うことになるよ」
『番号の前に【I-M】って刻印が入ってる。イブレート・マウリッツって意味だ』
「すべてに?指輪にも?」
『そう、細かな物までありとあらゆる物』
「凄い管理だ」
『他国からの頂き物。きっと大事にしていたんだ。イブレートは素晴らしい皇帝だったってことさっ』
『それを隠修士達と一緒に見つけ出してくれ。奴らは時機に上がってくる』
「それをどうやって運び出す? 荷車は燃えちまったぜ」
『アグニアとハラルが来るよ』
「あ、そうだった。あの東洋のお宝をお前の店に運んで来る手筈だった!」
『しかしその荷物はもうここに下ろす必要はない。それと一緒にマウリッツに戻すんだ』
「なるほど!」
『我が民の宝。イブレートの末裔の宝だ。』
「じゃあ、あとはぁ」
『ラーシュの妻、アデリーヌを捜し出すことだ』
「どこに行きやがったんだ?」
『俺は火を着けろとは言ったが逃げろとは言っていない。あまりの名演技に腰を抜かした』




