1〜【第1章・ドロテア男爵夫人】・ドロテア
※1部分1000文字前後で投稿して参ります。
新連載・宜しくお願い致します。
漫画家さがを様より頂いたイラストです。
ノルウェーの北東。バルデ。
すぐそこは北極圏だ。ナナカマドと呼ばれるバラ科の落葉高木。赤く染まる紅葉や果実が美しい。
生えているのはこの木2本だけ。1本はここに落ちた稲妻に、根元から二つに割れていた。
それはこの高い城壁に囲まれた古い城の庭。小さな畑と井戸。
冬場には雪と氷に覆われる極寒の地。それらはすべて白銀に変わる。
目の前には凍りつく北風のバレンツ海。無数のウミガラスと白カモメ。
浜辺は舞い降りた彼らに黒と白に覆われる。
城はかつての城主イブレートが手放してかれこれ200年。
出て行った理由は定かではないが、この北海3国の王フレデリク4世はここを地獄の控えの間と呼んでいる。
それは魔女狩りによって残された夫や子供をこの城に収監していると聞いたからに他ならない。
この北東の町を治めていたのはヘルゲ。爵位は男爵。
問題はこの夫人。ドロテア。
彼女は魔女を見定めるのに、バレンツの海を利用した。
ドロテアの命令により、海水に落とされた魔女と称される女。
沈んでしまえば魔女ではない。浮かべば魔女。
それが裁判。結局はどちらにしろ死だ。
ただ、ドロテアの魔女狩りは他の都市とは違った。
通例は魔術を使ったと証される者で、悪魔と契約を結び、キリスト教の破壊をもくろむ女だ。
しかし、この辺り一帯に住んでいた遊牧民、農民や漁民、約5000人。
魔女狩りに遭うのは、皆決まって結婚をしている女。
曇り空に洗濯物を干していれば、それを理由に狩られる。
乳の出が悪ければ悪魔の乗り移った女と見なされる。
その家の家畜が死ねば、それも理由だ。
それらすべては、民同士の密告。
それを告げれば男爵から報酬を受け取れる。
民はドロテア夫人の真意を分かっていた。
民が目をつけるのは、結婚を済ましている若い女。それは亭主も若いという事。
もう一つはその旦那が好顔の美男ということだ。
ドロテアは魔女狩りを理由に、その城に好みの目鼻立ちの整った男達を収監させた。
つまり未婚の女を魔女として捕らえても意味がないし、独身の男では魔女の理由付けには無縁。
結婚しているという事が、全ての条件を網羅する。
しかもだ。その夫婦に男の子がいれば言うこと無しの一石二鳥。
女の子は魔女の血が流れていると理由をつければ、お払い箱。
つまりこのヘルゲ男爵の統治下の町の魔女狩りは、ドロテア夫人の男狩りであったのだ。
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農民であったラーシュ一家。
山から海へと続くなだらかな貧地の斜面で芋を作っていた。ほとんどが自分の家で食べ終わるだけの作量。
鍬を振る夫ラーシュを眺めながら、妻アデリーヌはまだ生まれたばかりの男の子を抱え庭先で乳を与えていた。
「ラーシュだな! アデリーヌはおるか!」
斜面を上がって来たのは、3人の男。身なりはヘルゲの兵のようであった。




