4人だけの同期会
この後、軍のお偉方や王宮から派遣されている情報部の方たちと情報の交換をして、この場を立ち退いた。
「ここでしばらく休みましょう。
乗員は順番に上陸させてください。
ここでの上陸はさほど魅力があるとは思えませんが、それでも艦内よりはましでしょうから。
明日出航ということで連中に休息をさせてください」
「明日ですか。
分かりました。
で、艦長は」
「同期のマークと会ってきます。
僅かでも何か情報が得られるかもしれませんからね」
「そうですか。
では私は一旦艦に戻ります」
スペースコロニーの中央管理室から出たところで俺はカリン先輩と別れた。
さて、これからマークを探さないといけないがどこに行こうか。
まずは『シュンミン』のあるポートに行こう。
俺はこの辺りを探しながらポートに向かった。
ポートに向かう途中でちょうど向こうから来るマークと出会った。
「ちょうど良かった。
今マークを探していたんだ」
「それは都合がいいな。
俺も今しがた当直を交代したばかりだ」
「なら時間が取れるということだな」
「ああ。
しかしこのコロニー内で落ち着けるような場所は少ない。
やっと先日から食堂エリアで軍の購買部が仕事を始めたからそこに行こう。
酒も出すそうだ」
マークと出会ったのがポートと中央管理室の中間の場所で、目的の食堂は前に子供たちを保護した場所から近い場所にあった。
ここは小さなスペースコロニーであるので、端から端まで歩いても1時間もかからないが、それでも15分くらい歩いて軍の福利厚生部署が運営するエリアに到着した。
中は軍や王宮から出張ってきた連中で結構人が入っていた。
宇宙空間に出ると昼夜の感覚は無くなるし意味を持たないが、スペースコロニー内は一応の昼と夜の区別はある。
今は昼時間に相当しているが、ここに詰めている連中のほとんどが軍人であることからせっかく作ってある昼夜を無視して生活しているので、昼間っから酒を飲んでいる連中がここには多数いる。
酔っ払いでここも結構にぎやかだ。
「ちょっとにぎやかだね」
「ああ。このスペースコロニーではここしか楽しみが無いからな。
それもやっと営業を始めたのは先週のことだ。
不満をためた連中でここはあふれているよ」
「それって大丈夫か」
「ああ、流石にお偉いさんも考えているようだ。
俺たちのここでの勤務は明日までさ。
明日、第二艦隊所属の補給艦護衛戦隊が到着したら首都に帰ることになっている。
少しまとまった休暇も貰えると聞いているから、それもあって騒いでいるんだろう」
軍の施設に作られる将校クラブのような存在になった食堂で、俺とマークに加え、同期のソフィアとエマが同席してきた。
「マークは知っていたの、ナオ君のこと」
「ナオ君は失礼でしょ。
もう艦長よ」
「え、俺は艦長になったとは知らなかった。
コーストガードで叙勲されたかなんかで艦長代理にさせられたとは聞いたが」
「叙勲、何それ??」
「ナオ、話してもいいものか」
「別に話しても問題無いだろう。
そもそも伏せられたのってただ単に外聞が悪かっただけの話だ。
国民に知られるとちょっとという奴だが、それ以上の不祥事が表面化すれば流石にそれどころではないからね」
俺はそう言ってから、簡単に俺の最初の仕事について話を始めた。
首を絞められ落とされた間に事が進み知らないうちに功績を得たことだけは話さなかった。
別に功績を偽るつもりはないが、ただ単に面倒になることと、それ以上に自分の不甲斐無さを言いふらす気にはならなかっただけだ。
「しかし、どういう巡りあわせだよ」
「本当ね。
王国の大不祥事が立て続けに起こることもそうだけど、その両方に絡んでくるなんて、もはや疫病神??」
「疫病神は言い過ぎよ。
でも、運が無いのか豪運なのかは判断の分かれるところね」
「ああ、ナオが出世にしか興味がない奴ならそれこそ幸運の持ち主とうらやむけれどもな」
「それもそうね。
ナオ君は、在学時代から出世に全く興味を示さなかったよね」
「それが不思議なのよ。
何で出世に興味の無い人があの士官学校に入ったの」
「あ、それ、私も知りたい。
マークは知っているの?」
「いや、俺も知らない。
ただ……」
マークはそう言ってから俺の顔を見た。
マークとの初対面はニホニウムの宇宙港での話だ。
俺は訳も分からず、本当にどこに連れて行かれるのかも知らずに宇宙船に乗った時だ。
まさか一般兵としての軍への仕官が、この国でのキャリアパスでもあるエリート士官養成校へ続くとは。
マークにはその話をしているから、その話をして良いかの判断が付かないのだろう。
やれやれ、古傷に触ることになるが、何故だか今はあの時のように強い拒否感は感じない。
やはり俺の手で子供を殺したことの方が印象が強いからだろうか。
当たり前の話だが、これは俺一人の人生の話では無く、俺の手で複数の子供の人生を奪った話だ。
この業は殿下も一緒に背負ってくださると言って下さったが、それでも俺の一生をかけて背負わなければならない話だ。
まあそれに、俺の情けない話がこの先同期たちとの協力関係の強化につながるのなら安い物だ。
あの時首都ダイヤモンドに向かう宇宙船で、本当に訳も分からないうちにマークと話した時とは違い、今度はきちんと俺の言葉であの時の経緯を話して聞かせた。
「え、ナオ君ってそんなにできたんだ」
「第一王立大学への特待生推薦合格ってすごくない。
何で軍へ仕官したの?」
やはり聞かれた。
マークだけでなくソフィアやエマも良い所の出なのだろう。
俺は自身が孤児院出身だということを隠さずに話した上で、官僚になっても俺に未来が無いことを話した。
その上でビジネスマンとして大成するためにケイリン大学を受けたが、落ちたことも教えた。
あの時のケイリン大学については上流階級の間ではかなり有名だったようで、二人に同情されたのには驚いた。
「だから俺は成り行きなんだよ。
全ては、成り行きに任せている。
しかし、いきなりコーストガードに配属された時には驚いたが、別に軍での立身出世には興味も無かったし別に良いかって感じだった」
「そうなんだ」
ここでも同情されたが、俺の出世欲については理解されなかったようだ。
考えたら当たり前の話で、あの士官学校へはそれこそ必死に勉強してつかみ取った人しか入学してこない。
偶然とはいえ、棚ぼたでの入学なんか考えたことは無いのだろう。
それに士官学校への入学がゴールでなく、等しく全員のスタート地点になっている。
「だからコーストガードでの扱いも良いものでは無かったよ。
お荷物扱いで、最後には死んで来いと同様な命令が出たしね」
「何それ?」
「だから、俺の率いる臨検小隊30名だけで航宙フリゲート艦と航宙駆逐艦の2隻を落とせって命令が出された。
幸い部下が非常に優秀であったのと、それ以上に彼女たちが個性的だったのが幸いして助かったばかりでなくその2隻の鹵獲に成功して勲章を貰ったよ。
それで出世したのだから世の中ってわからないね」
マークはそこまでの経緯は聞いていたが、そこからを知らない。
だから俺の説明に突っ込んできた。
「そこまでは聞いていたから知っていたが、俺としては何故そこからまた昇進したか、という事が分からないんだが」
「だから、コーストガードにとって俺はお荷物なのは変わりがない。
そこで俺を潰す目的であんな無茶な命令が出されたんだよ」
「無茶な命令?」
「ああ、鹵獲した航宙駆逐艦の整備だ。
幸いマークの紹介とドック社長の腕と、それに俺の孤児院時代のお姉さん役であるマキ部長との協力でその企みも無事に切り抜けた。
ちょうどその時に王宮の方でも予てから計画のあった今の組織、広域刑事警察機構の立ち上げの話があったために体よくコーストガードを追い出された。
そこで殿下に拾われたって訳だ」
「なんだかよく分からないけど、その広域なんたらに再出向した訳だな」
「いや、一度軍に戻されてからだけど、その時に軍での階級も上がったよ。
今では中尉扱いだと。
尤もたかが中尉が何で戦隊司令を務めないといけないんだよな。
笑えるだろう」
今年は新型コロナによる疫病で始まりその疫病で1年が過ぎました。
生活面でも色々と大変な目に遭った方も多くいることでしょう。
来年こそは良い年であることを切に祈るばかりです。
この作品を楽しんでくださる読者の方々には良い年が来ることをご祈念します。
まだ、この章の続きがありますので明日元旦にも投稿します。




