俺の覚悟
まあ今では完全にべったりの関係であるのはドックの親会社で、会社の中枢にその社長の親友が居ればそうそう悪い話ではない。
そんな判断を瞬時にしてしまうマキ姉ちゃんは凄い。
また、その場での快諾とは本庁の部長職を拝命しているだけはある。
話し合いは終わる筈が、このまま孤児院の建設の話になってもうしばらくこの場に居ることになった。
そうなると俺も社長も暇なので、その場で新造船の構想や『シュンミン』の現状、問題点などを話して時間を潰した。
結局、孤児院建設についてはマークの父親が窓口となり、全面的にキャスベル工廠の協力の元建設することが決まった。
流石にここからは俺は完全にお荷物になるので、マキ姉ちゃんと別れてドックに戻ったが、マキ姉ちゃんはそのままマークの父親に連れられてキャスベル工廠の関連会社の一つである建設会社に向かった。
孤児院建設の仮契約に向かうのだそうだ。
どこまでも仕事が早い。
殿下から孤児院運営を完全に任されているので、土地取得から建屋建設、職員雇用まで全てがマキ姉ちゃんの判断で決められるという話で、かつ、すでに押収した戦利品からかなりの額が殿下の下に来ているとかでふんだんに予算も計上されているのだとか。
こちらに向かう宇宙船の中で殿下から指示を受けているのだとか。
今回の出張って完全に俺は役に立っていない。
要らなかったのではと、心配になって来る。
ならできることだけでもということでドックに戻り、例の宿泊施設の見分をした後に、百名を超える孤児を受け入れるための改造をすることにした。
個室がかなりの数があるが、それでも孤児百名を受け入れるには個室が足りないし、何より孤児を一人ずつ個室に入れるのも問題がある。
社長のところの若い衆を借りて簡単な改造を行うことにした。
幸いなことに今では完全に原形をとどめていない例の豪華客船から乗員用の施設がいくつか取り出せそうなので、最下級の乗員用ベッドを孤児の人数分持ってきた。
そこからマキ姉ちゃんから何かを言われるまで改造工事をして時間を過ごしていた。
結局、今回の出張はニホニウムで1週間過ごす羽目になり、シュンミンで運ばれてくる孤児達をドックの仮設孤児院で迎える羽目になった。
職員としては、とりあえずマキ姉ちゃんの知り合いで数人雇うことができ、また、約束通りにブルース孤児院からも数人借りることができたが、どうしても人数が足りない。
その足りない人数をシュンミンの乗員で補っている。
マキ姉ちゃんは常設の孤児院を作るべく奔走中だ。
ここから歩いて数分の位置に土地の確保はできたと今朝聞いた。
来週の竣工式が済めばマキ姉ちゃんも孤児院の運営に関われるので、そこまで孤児たちの面倒をマキ姉ちゃんから頼まれている。
しかし、良いのか。
まあ、捜査室の連中が戻らないと俺の仕事は無いからいいが。うちの連中って、コーストガードから一緒に来た連中は皆孤児院出身だけあって、孤児たちの扱いに慣れている。
見た感じでは任せても何ら問題を感じさせない。
あのケイトもマリアもだ。
まあ、いつまでも幸運が続くことは無いだろう。
宇宙に出れば死ぬほど退屈か、それこそ死ぬ目にあることもある。
なら今の平穏を楽しんでも罰は当たらない。
今では俺も孤児たちに混ざって楽しんでいる。
あの少女を見かけるまでは。
殿下に許されたとはいえ、まだ俺の中では許されないことだ。
どうしてもあの少女の顔をまともに見れない。
少女の方は見た目は完全に他の孤児たちと同じように過ごしているので、立ち直っているのかもしれないが、そんな少女が俺に近づいてきて、再度お礼を言われた時には驚いた。
「艦長さんだったのですね。
助けてもらいありがとうございました。
お姉さん方のお話を聞いて私は誓います。
マー君の敵を討つために殿下のお仕事をやります。
頑張って勉強もします」
と力強く俺を見て宣言してくる。
正直俺は迷った。
いや違う。
俺は恐れているのだ。
彼女が真実を知ることを。
俺の行為を非難してくる未来を。
俺は少し考えて、覚悟を決めた。
彼女が正式に隊員となった暁には正直に彼女に伝えよう。
彼女の憎悪を、恨みを一身に受けよう。
彼女に俺を殺させても良い。
その場合に彼女に罪が及ばないように細工する必要はあるが、戦場では後弾もあるのだ。
俺が味方に誤って撃たれても問題無いだろう。
尤もそれまで俺が生きていればの話だが。
俺はそう割り切ることで、心の中の折り合いをつけた。
シュンミンが孤児たちをニホニウムに連れてきてからさらに2週間が過ぎた。
子供たちの順応性は凄い。
もう今ではすっかりここでの生活になれ元気に過ごしている。
明日には殿下がここにお見えになり、竣工式が行われるというので、俺は士官たちを集めてその準備の手伝いをしている。
なにせ殿下を招いての竣工式だ。
地元の名士も集まる。
当然どこで聞きつけたか貴族連中までやって来るそうだ。
その対応を我ら士官が行うことになった。
尤も我ら士官だけではとてもじゃないが貴族相手は難しく、準備室からほとんどの職員が応援に駆けつけてきた。
そう、陛下のあの発表から初めて公の席で殿下が見られるのだ。
殿下もこの席を利用するつもりでどっちが狸か分からないが。そうでもなければ貴族なんかやっていけないのだろう。
俺らは貴族でない地元の名士の対応をすることになっている。
受付で士官たちが仕事をしている傍で俺は立っている。
受付に入り仕事をしようとしていたらマキ姉ちゃんの部下たちがやってきて俺を止めに来た。
なんでも頼むからやめてくれと言っている。
そんなに俺は信用無いのかと思ったが違うらしい。
殿下の立ち上げる組織において俺は重要な立ち位置に居るらしい。
そんな人に受付をやらせるわけには行かないという話だ。
殿下の鼎の軽重を問われるとか。
俺は必死の願いを受け、受付の傍で偉そうに立っているだけだった。
そんな俺を見つけたジャイーンが俺のところに来て俺をどこかに連れて行きたいらしいことを言ってきた。
流石にここには体育館などないぞ。
裏に連れて行ってボコられてもたまらない。
いや、違った。
なんでもジャイーンの親に会ってほしいそうだった。
え、俺はお前と結婚するつもりもないぞと言ったら、本気で殴られた。
しかし殴った本人は必死だった。
前に彼に会ったのはパーティー会場だったが、ここまで必死では無かった。
しかし今日は何か違う。
まあ俺も彼の一族には面倒を見てもらっていた孤児院の出身なので、彼の願いを聞いて後についていった。
元々竣工式は一瞬で終わる。
偉そうに知らない人たちが殿下の前で挨拶をして何やら言った後に殿下がお言葉を発して式そのものは終わる。
後はそこでガーデンパーティーじゃないが軽く軽食をふるまい会食して終わりの予定だった。
俺はそんな会食中のジャイーンの父親の前に連れて行かれた。
ジャイーンの父親とは全くの初対面だ。
しかし、子供のころから孤児院で世話になっているから敬うように教育されている俺はとにかく挨拶だけでもと思い頭を下げると、向こうは更に低く深く頭を下げて挨拶をしてきた。
なんで??
前にも触れたが、殿下が作る組織はどこでも最大の関心事になっている。
この星で財閥を率いる彼は孤児院関係でもキャスベル工廠に出し抜かれたようなものだった。
それに何よりも、ブルース孤児院がマキ姉ちゃんの要請を断ったことを気にしていた。
殿下の不興を買ったのではとかなり恐れている様だったので、俺はジャイーンの父親を連れてマキ姉ちゃんのところに向かった。
ちょうど挨拶もひと段落していたようで、直ぐに俺のところにやってこれた。
「マキ姉ちゃん、違った、室長。
この方がジャイーン殿の父上で、孤児院を色々と援助してくださっていたストロング・アーム家のご当主です。
なんでも先の件でお詫びしたいとかでお連れしました」
「マキ・ブルース室長ですか。
私は……」
そこから簡単に話があり、どうやら彼らの誤解は解けたようだ。
元々急な話で無理そうだったことはこちらでも理解している。
職員を数名貸してもらえただけでも十分な成果だと考えていたところだった。
まあ、せっかくの殿下への接触の機会が奪われてしまったことで機会損失を嘆いていたが、不興までは買っていないと分かり安心した様だった。
今後はニホニウムで孤児院を運営することもあり、協力すると約束を貰いその日を終えた。
結局殿下からの出張の命令を受けてから一月近く時間がかかったが、とりあえず我々の懸案事項の一つである子供たちの落ち着き先を用意できた。
俺は式典の後に殿下から命令を受け再び宇宙に向かった。
今回でこの章も終わり、次章はまた宇宙で活躍が期待されます。
現在、次章に創作については全くできていませんので、また数日お待たせしてしまいますが引き続き応援いただきますようよろしくお願いします。




