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交渉の失敗、そして

 殿下もその辺りをマキ姉ちゃんとの話し合いから理解しており、今コーストガードとの落としどころを相談している最中だ。


 今の世の中の流れからすると広域刑事警察機構がコーストガードを吸収してしまうことも遠い将来にはあり得るかもしれないが、近々では無理だ。


 落としどころとしてはコーストガードと共同して子供たちの新たな受け入れ先として作る方向で話を進めている。


 殿下の作る子供たちの受け入れ先を全寮制の学校として両者で運営していくのだ。

 当然卒園生は希望によりその両方の組織へ配属されていくことで、納得してもらう。


 そんな構想も話してとにかく幼い子供たちだけでも受け入れが可能かどうかを聞いていた。


 結論から言うと、殿下とマキ姉ちゃんの構想は受け入れてもらえなかった。

 辛うじて子供たちの面倒に対して数名の職員の貸し出しだけは了承してもらえた。


 となると、一から孤児院を作らないといけなくなる。

 場所や施設については、俺に当てがあった。

 普通こういう事態になると人物金全てが足りずに物事が進まないものだが、人以外についてはどうにかなる。


 施設についても、例のドックの隣に殿下が買い上げた工場跡地がある。

 そこに宿泊施設を用意すればいいだけだ。


 プレハブ工事でもすぐにどうにかなるだろうが、俺はお隣さんに泣きつけばどうにかなると睨んでいる。


 俺らが泊まっていたあの解体船から作った宿泊施設がまだある筈だ。

 あそこなら相部屋にするだけで100名は簡単に収容できる。

 運営費用についても、殿下が用意することになっているので、問題は無い。


 問題として残るのは世話する人だけだ。


 最悪、『シュンミン』から人を出して世話させればいいだけで、保護した子供たちを路頭に迷わすことは無い。


 マキ姉ちゃんも同じことを考えていたのか、孤児院との話し合いを打ち切ってあのドックに向かった。


 俺らはドックの社長にまたあの宿泊施設の借り受けの交渉に向かった。

 本来の目的は、隣にある工場跡地に将来の広域刑事警察機構の人員を養成する教育施設を作るときの協力の要請だったが、それ以上のことを先方に求めることになってしまった。


 まあ、あの社長のことだから、それほど難しい事にはならないだろうがマキ姉ちゃんと一緒にドックの事務所に入っていった。


 珍しく社長が事務所で仕事をしていた。


「お、最近よく来るな。

 今日はあいつらは居ないのか」

 社長の言うあいつらとはマリアたちのことだ。

 もうここは完全にあいつらの遊び場所になっているし、ここの社長もそれを黙認どころか完全に勧めている節もある。

 あいつらは手遅れなので諦めているが、それ以外、少なくとも就学隊員にだけは危ないことを教えないでほしいとすら思っている。

 あ……、ここに孤児院を作っても大丈夫か。

 俺はいきなり心配になってきた。


 そんな俺の心配をよそにマキ姉ちゃんは社長とどんどん交渉を始めている。

 そう言えばマキ姉ちゃんもここの社長のお気に入りだった。

 マキ姉ちゃんもここの社長のことを買っている。

 あの二人は全く違う畑なのに馬が合うのだ。

 今更ながら心配になってきた。


 下手をするとここで、マリアたちのような者を量産してしまうのではと。

 そうならない未来を祈りつつ二人の交渉を見守る。


 孤児院については簡単に話が付いた。

 前に俺らが使っていた解体船から取り出した船室は、そのまま移動もせずにここで使わせてもらうことになった。


「どうせ応急的なのだろう。

 それに急ぎなんだろう。

 ならそのまま使え。

 うちは構わない」

 と社長は簡単に快諾してくれた。


 結局、ここの宿泊施設で、保護中の子供たちのための孤児院をそれこそ明日から始められることになった。


 マキ姉ちゃんは殿下から応急的でない孤児院の建設についても一任されていたようだ。


 いきなり予算は大丈夫かと心配になったが、なんでも先に攻略したスペースコロニーからかなりの金銀や換金性の高いお宝を押収してあるので、そこから回って来るそうだ。


 近い将来、王宮にお取り潰しになる貴族や降格や罰金など科せられる貴族からの収入も期待されており、そこから設立される広域刑事警察機構に予算がふんだんに増えることは既に決定されていると教えてくれた。


 そんな事情もあるのだろう、孤児院についてはとっくに話が終わっているのに、まだマキ姉ちゃんと社長は話し込んでいる。

 なんでも新造船がどうとか。

 これは流石に決定事項では無いが、正式に省庁として発足されることで、持ち船が一隻では少なすぎる。


 これでは仕事に支障が出ることは容易に想像されるということで、取り潰しの貴族からの資金を当てに新造船の造船交渉、事前交渉のさらに前段になるが、情報収集くらいの位置づけだが、新造船について話し合っていた。


 荒事用の戦闘艦についてもそうだが、それ以前に捜査員の派遣用の高速船の必要性が高まっていた。

 その高速船について、マキ姉ちゃんは社長にああでもないこうでもないと一生懸命に話している。


 結局新造船についてはドックの親会社のキャスベル工廠を交えてした方が良いとなり、その日を終えた。


 ブルース孤児院との交渉は完全に失敗となったが、この日はそれを上回るのに十分な成果を出して終えた。


 翌日には、あの社長の計らい??で俺らは朝からキャスベル工廠の本社に来ていた。

 直ぐに社長応接に通されて、マークの父親とその上司に当たる社長との面会になっている。


 完全に場違いな席だ。

 俺はどうすることもできずにマキ姉ちゃんの隣で固まっている。


 俺が緊張でカチコチになっているというのに、俺の隣では完全にリラックスしているあの社長が座ってコーヒーを美味しそうに飲んでいる。


 負けたような気がしてなんだか悔しい。

 そんな俺らに構わずにマキ姉ちゃんは社長たちに挨拶をしている。


 そう言えばマキ姉ちゃんはマークの父親とは初対面のはずだ。


 後で紹介しておこう。

 何せ隣の社長を紹介してくれたのがマークの父親なのだ。

 いわば俺らの、いや俺だけかもしれないが救いの主だった人だ。


 あいさつの後に、マキ姉ちゃんが新たに作られる組織について説明後に、決定事項では無いと断ってから新造船について相談を始めた。


「とにかく、スピードが重視されます。

 幸いそこの社長の協力で、現在使用している航宙駆逐艦が王国一番の速度を出すことができるようになり、現在までは問題無く済んでおりますが、これからは仕事も増えることが明らかなのでそれだけでは足りなくなります。

 殿下所有のクルーザーもお借りして現状をしのいでおりますが、そのクルーザーでも速度が足りておりません。

 航宙駆逐艦と同程度の速度の船が必要です。

 まだ確定しておりませんが、予算の方はどうにか都合が付きそうですので、ご検討いただけたら幸いです」


「聞いております。

 ご活躍の航宙駆逐艦が弊社関連会社の改造の成果だと我ら一同喜んでいたところです」


「何、思っても居ないことを」


「こら、しばらく黙っていてくれ」

 マークの父親は友人であるドックの社長の茶々にたまらず苦情を言った。


「まあ良いよ。

 しかし、あの活躍には本当に喜んでいる。

 あの後軍からも問い合わせもあったし、次期の航宙フリゲート艦の開発計画の打診もあったしな。

 あ、これはオフレコで」


 ここも『シュンミン』の影響が少なからず出ているようだ。

 確かに内装はとんでもないが、性能だけは軍のどの艦よりも優れているといえるかもしれない。


 まあ、艦全体をスカーレット合金で覆うというとんでもないことまで仕出かしているが。


 まあ、今回は挨拶だけの話なのでそれほど突っ込んだことにはならなかった。


 会合も終わりに近づき、挨拶をして席を立とうとした時に先方から孤児院についての話が出て来た。


 なんでも、キャスベル工廠とのご縁もあることだし、殿下の作る孤児院に協力を申し出て来たのだ。

 地元名士からの協力は何よりもありがたい。

 ブルース孤児院も地元一番の財閥であるストロング・アーム家からの援助を頂いているのだ。


 しかし、只の善意からの協力の申し出だけではないことはここに居る全員が理解している。

 今の広域刑事警察機構が置かれている立場はハイエナなどから襲われるガゼルのようなものだ。

 これは貴族社会だけではない。

 経済界からも利権を求めて繋がりを持とうとする勢力がそれこそ雨後の筍のごとく現れている。


 そこに先の国王陛下の発表もあり、現在はちょっとすごいことになってきているそうだ。


 キャスベル工廠も今まで持っている絆を強化してより一層食い込みたいと考えている。

 別にこれは批難されるようなものではないが、中の人間からすればちょっと考えさせられるものもあるのは事実だ。


 しかし、どちらにしても地元経済界からの協力先を探さなければならなかったこともあり、マキ姉ちゃんはその場で協力をキャスベル工廠に頼むことにした。



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