重大発表
「何か聞いているかしら」
「はい、記者会見に出てほしいとのことでした。
なんでも王宮からここのことについて重大な発表があるとか。
その場に参加してほしいとのことです」
「それならそれほど時間は取られませんね。
ナオ君、終わるまで待っていてくれるわよね」
「え?
何の事だ」
「食事の約束よ。
すぐに終わるから待っていてね」
そう言うとマキ姉ちゃんはすぐに部屋から出て行った。
残された俺とメーリカ姉さんは片づけをしながら「この後どうしますか」などと話していた。
二人で食べに行ってもいいがそうすると絶対にマキ姉ちゃんが面倒くさいことになるな。
「待つしかないだろう。
悪いが食事はもう少し待ってくれ」
「ええ、それは良いのですがどこでお待ちしますか」
「ここで待っていてもいいが、マキ姉ちゃんは王宮に向かったのだろう。
王宮で待たせてもらうか」
俺らはここから歩いても数分の距離にある王宮の一般に開放されているロビーでマキ姉ちゃんを待つことにした。
ここは王国全土から陳情などで訪れる者たちに対して開放された場所だ。
ここで受付をしてそれぞれの担当者と面会する仕組みになっており、それを待つ人向けに待合室のような設備も整っている。
奥にいくつかあるソファーや、セルフサービスではあるが飲み物も準備されており、マキ姉ちゃんを待つには申し分ない場所だ。
俺らがお茶を飲みながら待っていると、壁にある大型のモニターから、これから重大な発表があるという音声が流れて来た。
モニターを見ると会見場が映し出されており、ちょうど陛下が入ってきたところを映していた。
陛下の後ろには殿下も付いて会見場に入り、陛下の隣の席に着いた。
陛下の着席を確認した侍従長が記者たちに向かって発表を始めた。
内容は俺らが摘発してきたスペースコロニーのことだったが、発表の主題は摘発では無く、その摘発に大いに貢献してきた広域刑事警察機構設立準備室についてだった。
ここからが陛下のお言葉になるが、海賊相手に既にいくつもの成果を出している広域刑事警察機構設立準備室について、来年を目標に新たな組織として発足させることを宣言したのだ。
また、その組織の初代長官に隣に座っている殿下を充てるとまで発表した。
それと同時に、今彼女が今就いている設立準備室室長の役職を解いて新たに長官職に格上げすることも発表した。
このことで、殿下は国内の最有力者の一人になったと言っても過言ではない。
王国ではこの長官職は宰相の次にあたる大臣職に準じるもので、序列でかなり高位になる。
もう軍からの横槍に対しても軍の最高職で無い限り序列で下位になるために簡単に排除出来ない存在にまでなったと陛下が宣言したのだ。
その後は、来年作られる広域刑事警察機構についての発表を殿下が行うことになり、この時になって会見場にマキ姉ちゃんたちが入ってきた。
「この会見のために呼ばれたのですね」
「ああ、しかし偉く急な話だな。
普通こういった会見って十分に準備してからするものじゃないか。
別に急ぐものでも無かろうに」
俺の素直な感想にメーリカ姉さんも同意している。
「私にはこういう世事には疎いのでよくわかりませんが、艦長の言われるように急ぐようなものではないとも思います」
会見では殿下が管理職について一人一人を紹介している。
ちょうどマキ姉ちゃんが紹介されて、簡単に挨拶をしていた。
緊張している筈なのにそつなく挨拶をこなしている。
「しかしマキ姉ちゃんは若いな。
残りは全員ある程度年齢のいっている人ばかりだし、悪目立ちしないといいが」
その辺りは殿下も心配していたようで、特にマキ姉ちゃんについて組織の最大戦力である艦船の管理部門の責任者と紹介後、殿下自身が一番に信頼を置いているとまで言っていた。
これは殿下のお気に入りだから余計なことするなよと殿下自身が宣言したようなものだ。
それくらい俺でもわかる内容にかえって心配にもなるが、マキ姉ちゃんにとっては力強い盾ともなるのだろう。
そんな感じで会見は終わり、しばらくしてマキ姉ちゃんは解放された。
ちょうど組織の管理職が一堂に集められたので、この後簡単な会食にと話が出た時にマキ姉ちゃんが俺らを待たせていると話したら、俺らも管理職扱いになるのでちょうど良かったとばかりに俺らもどこかに連れて行かれた。
流石に衛兵に囲まれた時にはビビったが、直ぐにマキ姉ちゃんと合流ができ、事の次第を理解した。
殿下が気を利かせて会食の準備をしていたようだ。
流石に殿下は参加しないそうだが、マキ姉ちゃんたち管理職は殿下お気に入りのレストランに案内された。
俺らは完全におまけだが、それでも管理職なので構わないと気さくな人事課長が言っていた。
会食に先立ち俺とメーリカ姉さんは保安室長に初対面の管理職三人の紹介を受けた。
先ほど気さくに声を掛けてくれた人事課長を始め経理課長、総務課長の三人だ。
紹介の後乾杯をしてから会食となった。
その席で恐ろしいことを聞かされた。
先の会見で、今所属している準備室が本来の意味での準備を始めることになった。
今までは殿下の道楽扱いだったので、名前こそ準備室だったのが、来年に本庁としての組織化することに伴い、彼らの扱いも変わるそうだ。
全員が全員とも今日付で、本庁部長職となると言っていた。
マキ姉ちゃんも当然あの席にいたわけだから部長となる。
王国始まって以来の平民出身の本庁の女性部長で、しかも最年少になるという訳で、この後各方面から注目を浴びるから注意してほしいとフェルマンさんがマキ姉ちゃんにわざわざ注意してきた。
マキ姉ちゃんは確かに優秀だとは思うが、風当たりが強くなりそうで、かわいそうだ。
そんなことを考えていたら、俺にも注意が飛んできた。
殿下座乗艦の艦長としてただでさえ注目を浴びているところに持ってきて、俺の扱いも変わるという。
話を聞く限りそんなに変化は無さそうなのだが、広域刑事警察機構艦隊司令という役職まで付くのだそうだ。
だいたい航宙駆逐艦が一艦しかないのに誰が司令官だといいたい。
しかし、来年あたりにあと数艦の準備をするとも言っているのが気になる。
まああまり考えても良い事は無いので今は食事を楽しむことにしたが、それでも皆環境の激変に困惑しているようで、おかしな雰囲気の中の会食となった。
とにかく今回の会食で、俺たちが置かれた特殊な状況は理解できた。
どうしても政治的な情報はマキ姉ちゃんからしか入らないが、マキ姉ちゃんだって、俺と同じ孤児出身であり、かつ彼女も特殊な状況に置かれているので、以前の組織からも浮いた状態となっていることだろうし、情報の不足は如何ともしがたい。
まあ、集まった面々も保安室長の話では貴族社会では冷や飯ぐらいだったようで、上層部にはアクセスはできない人ばかりのようだ。
今のところ俺にとってはあまり関係がないがこの先はどうなるか分からない。
要は軍や貴族からの横槍で、俺の邪魔はさせたくないだけの用心はしておきたかっただけだ。
俺の中で、かっこよく殉職するという夢はまだ捨ててはいないが、殿下からの借りの精算が済んでいない。
あの時俺は殿下に救われたのだ。
その借りをまだ何も殿下に返していない。
俺は殿下のために、いや、これ以上の不幸な子供たちをなくすための邪魔はどんな手段を使ってでも排除する。
それがたとえ先輩であってもだが、先輩と話した感じでは問題なさそうなので、あまり気にはしていないが、誰が来てもどこにも忖度することも無く叩き潰す。
とにかく俺は一刻でも早くシシリーファミリーを潰したい。
しかし、あのスペースコロニーから捜査室長たちが戻らないと俺には仕事がこないだろう。
その後のシシリーファミリーについての情報を俺は全く持っていない。
いや、俺の仕事は有った。
新人の就学隊員たちの訓練だ。
いやそれ以前に俺の机の上にたまった書類の処理を済ませないと……
書類もそうだが、本庁への格上げに備えて人員の確保は最優先課題になるし、明日にでも殿下と相談して訓練に出させてもらおう。
とにかく地上のオフィスに居るといつまでたっても俺はあの地獄から解放されそうにないからすぐにでも宇宙に逃げ……、いや、人員の補強のための訓練に出ないと。
首都での初日は色々とあったが、とりあえず無事に終わった。




