地上でのお仕事
首都星に近づき、鹵獲した航宙駆逐艦について、政府からの命令があった。
調査のために、政府が預かるという話になり、2隻は首都星の衛星軌道上にある軍の防衛司令部が置かれているスペースコロニーに預けろと言ってきた。
俺にとっては非常にありがたい。
流石に無人のリモートで惑星に降ろすのは骨だ。
誰かをあの航宙駆逐艦に移乗させなければと考えていたところだったので、それが省けただけでもありがたい。
スペースコロニーは無重力なので、そのまま係留スポットにおいておけば良いだけなのだ。
そのためリモートで係留スポットまで操縦して切り離し、俺らだけで首都星のファーレン宇宙港に着陸した。
流石にファーレン宇宙港だ。
ここは軍最大の基地だ。
そこには当然軍の医療本部やそれに付随する病院もある。
そこからたくさんの医療スタッフが『シュンミン』を囲み、降りて来る子供たちを順次病院に運んでいく。
『シュンミン』の周りには救急車が沢山駐車して順番を待つ状態になっていた。
また、預かっている医療系の容疑者も保安員が軍警察に引き渡した。
殿下は迎えに来ていた高級車に乗ってどこかに行ってしまった。
多分王宮に呼ばれているのだろう。
俺の仕事は着陸後のルーチンワークしかない。
必要最低限の乗員を残して、残りの乗員に交代で離艦の許可をだした。
ここのところかなり無理をさせていたこともあって、数日ゆっくりとさせておきたい。
それらのルーチンを終えると、俺は副長を伴ってグランドオフィスに行かなければならない。
ここファーレン宇宙港からは少し距離があるが、タクシーを使い官庁街にある広域刑事警察機構設立準備室の入る合同庁舎に向かった。
自分の部屋に入ると早速マキ姉ちゃんがやってきた。
ここに入るときにはいなかったので、忙しくしているのだろうが俺が帰るとすぐにやってきてくれた。
「お帰りなさい、艦長。
今回は大変でしたね。
………
あれ、何か雰囲気が変わりましたね。
何かありましたか?
メーリカ副長は何かご存じで」
「いえ、私も詳しくは知りません。
しかし、スペースコロニーで何かあったようです。
艦長は何もおっしゃりませんが」
「室長、もう少し自分の中で整理が付いたらきちんと話すよ。
副長にも。
それまで待ってほしい。
それよりも、面倒な事務仕事を先に済ませようじゃないか」
しかし、艦長って職種は宇宙にいるほうが暇なのか。
いや、地上に居る時が忙しすぎるのだ。
大体なんなんだ。
この戦争のはびこる時代に、一々使った武器弾薬の報告って面倒以外にないだろう。
その他燃料やら食料、それに他の基地への立ち入りについての報告やらその時に使った費用に請求書の処理。
その他、使った分を含め、次の航海に向けての補給計画書の作成、そのほか乗員たちについての報告など事務仕事だけでどんだけ忙しいんだ。
軍などでは、定型のフォーマットがあり、艦内の端末から自動的にデータを送るだけで済むようになっているとも聞くが、ここはまだできたばかりの組織で、そこまで手が回っていない。
苦労するのは現場の人間と云う訳だ。
流石にわずかな時間では終わりそうにない事務量だ。
今日のところは一旦終わらせた。
「あとは明日にしよう」
俺はそう言い、事務仕事を切り上げた。
「そうですね。
そこまで急がないといけないものではありませんし、この分だと明日中には終わりますからね。
お茶でも入れましょうか」
マキ姉ちゃんがそう言って、みんなの分のお茶を入れてくれた。
ちょうど良かったかもしれない。
グランドオフィス内にある艦長室は他とは完全に仕切りで分けられており、音も漏れにくい。
俺は二人に先のスペースコロニーで起こった事を俺の口から報告した。
子供から臓器の摘出については前に子供たちを保護した時から薄々ではあるが覚悟していた内容だが、それでもマキ姉ちゃんは相当にショックを受けていた。
流石にメーリカ姉さんは平静を保っていたが、それでも俺が子供を殺したことについては相当にショックを受けたようだ。
最後に殿下から頂いたお言葉を伝え、俺の気持ちを正直に話して聞かせた。
「落ち込むような話はこれでおしまい。
それよりも、俺の艦に先輩が配属されてきたんだけれど、あれはなんだ」
「何だと言いますと」
「おかしいだろう。
先輩だよ。
一級上だとは言っても、恩賜組が何で俺の下にくるんだ」
「何ですか、その恩賜組って」
俺は詳しくは知らないと断ってから、エリート士官学校で話されていることを二人に教えた。
それと同時に俺の成績についても話しておいた。
でないと当然の疑問が二人から出るからだ。
それでも聞かれたが、それに答えようがない。
俺も知りたいくらいなのだが、それでもおかしな人事が首都で行われたことについてマキ姉ちゃんに聞いてみた。
「最近。政府上層部でおかしな話を聞かないかな」
「おかしな話って言いましてもね。
……
あ、そういえば最近、ナオ君たちが活躍してからやたらとここが目立ってきましたかしら。
よく知らない部署から問い合わせが入るようになりましたね。
殿下がニホニウムで記者会見をしてから、貴族からも圧力がかかることもありますよ」
「貴族からの圧力って」
「そうですね、具体的な例としては、ここに息の掛かった人を送り込みたいようですね。
それこそ私なんかのような庶民は追い出して、役職に就けたいようでしたね。
私が孤児出身と分かると途端に態度が変わりますから」
「大丈夫なのですか」
メーリカ姉さんがマキ姉ちゃんの話を聞いて心配し始めた。
「ええ、大丈夫です。
あまりしつこいのはフェルマンさんが代わって対処してくれていますから」
どうやら首都に居る貴族たちには、ここは新たな鉱脈にでも見えたのだろう。
あっちこっちからここで権益を得たいと頑張っているのだろう。
なにせここはまだどこの権益にも所属していない。
「そう言えば先輩もそんなことを言っていたしな。
先輩は軍からだったが、貴族出身でもあるし、何より殿下のご学友だったそうだ」
「そうでしたね。
カリン少尉は軍からの推薦をもってこちらに移ってきましたから。
普通ならどこの推薦でもフェルマンさんが断っていましたが、カリン少尉はそのまま受け入れていましたから、王室がらみだとは思っていましたが、殿下のご友人でしたか」
「これからも軍から色々と人が送られてくるのかな」
メーリカ姉さんが心配そうに零していた。
しかし、軍でも今はそれどころではないだろうな。
あの時海賊が言っていたことに軍の高官にもつながっていると。
その証拠を殿下や後から来た監査部の連中は掴んで帰るだろうから、その後大騒ぎになるだろう。
俺らは部屋でお茶を飲みながら最近の首都の雰囲気など他人事のように話していた。
「そろそろ腹が減ってきたな」
「ナオ君。
どこかで食事でもしない」
「いいね。
マキ姉ちゃんは良い所知っているの」
「任せて頂戴。
色々と事務所の人たちと一緒に開発してきたから。
メーリカ少尉もご一緒にどうですか。
当然ナオ君のおごりで」
「な、まあいいか。
俺にもそれくらいの甲斐性はできたから。
メーリカ姉さんも一緒にどうだ」
「それならご一緒させていただきます」
「それはよかった」
俺らが今まで飲んでいたお茶の片づけを始めていたら、部屋の外からマキ姉ちゃんを呼ぶ声が聞こえて来た。
それもかなり慌てているようだ。
「室長、殿下がお呼びです」
そう言って、事務員の一人が俺の部屋に入ってきた。
「先ほどフェルマンさんが室長たちを呼んでおりました」
「達って誰なの、私の他に誰が呼ばれたのか知っているの。
知っていたら教えて」
「ここの管理職の皆さんです。
外に車を待たせているそうですので、至急そちらに向かってください」




