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おまけ:マークの初陣 後編

 

「副長。

 接舷します」

 強襲揚陸挺を操縦している陸戦隊の隊員が副長に報告する。

 その報告を聞いている全員が緊張感を高めた。


「ショックに備えよ」

 副長が分かりきったことだが、注意喚起を行う。


 『ゴ~~~ン

 ゴゴゴ』

「接舷確認」


「突入準備」


「ハッチ、こじ開け完了」


「陸戦隊、突入」


 副長が連れて来た兵士たちが強襲揚陸挺がコロニーのポートに接舷すると、直ぐに突入口を確保するために近くのハッチをこじ開けた。


 ハッチが開くのを確認するとすぐに陸戦隊を突入させた。


 陸戦隊が全員入る前から銃撃戦が始まったようで、微かな振動が伝わって来る。

 ハッチを無理やりにこじ開けた関係上、陸戦隊が全員突入してもまだ、空気が外に漏れ出ている。

 その空気に混じって紙など軽いものも向かってくるので視界が遮られて、ちょっと危険な状態が続いている。


「視界には注意しろ。

 十分に周りを警戒してから我らも突入するぞ。

 マーク准尉。

 君は隊を率いて私に続け」


「了解しました、副長」


「准尉、大丈夫です。

 先行組がほとんど片付けていますよ。

 落ち着いて副長に続きましょう」


 マークの副官である下士官の女性がマークに声を掛ける。

 マークも、ここまで来れば腹も据わる。


「大丈夫だ。

 遅れずに行くぞ」


「小隊長に続いて突入」

 彼女の号令でマークの小隊も中に入っていく。


 既に中では陸戦隊が戦闘中だった。

 後から入ったマーク達は予てからの予定通りにどんどんバリケードを築いていく。


 一進一退の攻防がしばらく続いていたが、急に副長がマークを呼ぶ。


「マーク准尉。

 すぐ来てくれ」


 呼ばれたマークは、直ぐに副長の下に向かう。


「このままではじり貧になる。

 貴様は隊を率いて、ポートコントロールルームを制圧してくれ。

 あそこの階段から上がればいける筈だ」


「あの部屋ですか」


「そうだ、ここから見えるあの部屋だ。

 見ての通り、向かう途中の階段では身を隠す場所がない。

 駆け抜けるしか身を守れない。

 我らが援護するが、それを分かったうえで判断してほしい」


「……」


「ああ、だがこのままでは作戦の成功は難しい。

 私ができれば行きたいのだがね。

 あいにくあそこまで駆け抜けるだけの体力がない」


「分かりました。

 やらせてください」


 マークは自身の部下に副長からの命令を伝えた。

 全員の顔には緊張が走る。

 でも、一人も不満そうなことを言わずに、直ぐに笑顔を見せてマークに答える。


「小隊長。

 顔つきが変わりましたね」


「ああ、でも今の方が何倍もカッコいいですよ」


「からかうなよ。

 正直言うと、今でも怖いんだからな。

 でも俺は軍人になったんだ。

 守らないといけないものがある。

 それに同期のナオにはできて俺にできないことは無い筈だ。

 さあ、副長を待たせるわけには行かないぞ」


「皆、良いね。

 それ走れ~」


 マークたちは一斉に階段に向かって走り出した。

 ここまでは障害物があるので、そう簡単に攻撃されないが、ここから階段を上るときが一番危ない。

 しかし、マークが先頭に全員が一団となって階段を駆け上がり扉を蹴破りコントロールルームになだれ込んだ。


 中には海賊の一味がいたが、荒事に適した連中ではなかった。

 直ぐにマーク達に制圧され、コントロールルームを占拠した。


「副長、コントロールルームを占拠しました」


「でかした、マーク准尉。

 俺の合図で、ハッチを一斉に開けてくれ」


 今戦闘中の場所はハッチを無理やりこじ開けて入った関係で、一時的に空気が抜けていたが、直ぐに非常装置が働いて、今は呼吸できるだけの空気がある。


 その環境を壊そうというのだ。


 副長の合図で、その5つあるハッチを一斉に開けた。


 この措置で一挙にこの場所での戦闘が片付いた。

 宇宙空間でも大丈夫なような装備を身に着けていない連中が海賊には多かった。

 当然乗り込んできたマーク達にはそんな者は一人もいない。


 ハッチが空いたことで海賊たちは一斉にパニックに陥った。


 その隙に乗じて、どんどん海賊たちを片付けて行く。


 マーク達がコントロールルームを占拠してから1時間もしないで、ポートの占拠は終わった。


 このコントロールルームを含め、これから最大でも2時間はポートを死守しないといけない。


 休む間もなく先遣隊は確保した橋頭堡を守るべく、周りにある物を使ってバリケード作っていった。


 ここが片付いてから暫くはばらばらと海賊たちもこの場所の奪還に来ていたが、それもこちらの守りが硬いと分かるとそれも無くなった。


 突入から2時間後に本隊が到着した。


 殿下のクルーザーと一緒に航宙フリゲート艦2隻もポートに入り、チューブを使ってどんどん兵士が下りて来る。


 マークが守っていたコントロールルームに仮の本部を置いて、本格的にスペースコロニーの制圧が始まった。


 マークの仕事はとりあえずここの死守までで、スペースコロニーの制圧隊には加わることなく、交代で休憩しながら、この場所の警護の任について、マークの初陣と言えるものは終わった。


 暫くすると、スペースコロニー内に制圧完了の放送が流れる。


 スペースコロニー全体をコントロールしている中央制御室の占拠も終わり、残党狩りに向かっているそうだ。


 その後、再度マークに重要な仕事が回ってきた。


 クルーザー内で待機している殿下たちを中央制御室までお連れする任を副長から言いつかった。


 ここで初めてマークは殿下と直接接することになった。

 マークの部下もこういった仕事には不向きなようで、全員が緊張する中、クルーザーに繋げられたチューブから保安員やSP、それに捜査員を引き連れた殿下が降りて来た。


「宇宙軍第一艦隊補給艦護衛戦隊所属、マーク・キャスベル准尉です。

 殿下を中央制御室まで案内する任を仰せつかっております」


「ご苦労様です、マーク准尉。

 では、お願いします」


 まさか直接殿下からお声が掛けられるとは思っていなかったマークはこのお言葉で完全に固まった。


 緊張はしているが、直接声を掛けられていないマークの部下がフォローして、とりあえずその場は収まった。

 その後は一言も口を開くことができずに殿下たちを命令にあった中央制御室に御連れしていって仕事は終わった。


「ご苦労だったな、マーク准尉。

 後はポートに戻って警戒を続けてくれ」


 副長からこの言葉を聞いて初めて緊張から解き放たれたマークは、この時になってこの命令はマークの勇気ある行動に対してのご褒美代わりであったことを理解した。


 殿下にお目見えを果たし、なおかつお言葉を頂いたのだ。


 初陣での活躍もあり、同期に対してアドバンテージを貰ったようなものだ。


 少尉任官は下手をすると恩賜組よりも早いかもしれないと、マークはひそかに喜んでいた。


ここまでこの作品をお楽しみいただき感謝しております。

第5章もこのマークの初陣で終わります。


次章はこの先のナオとマークがスペースコロニーで会う辺りから話が始まります。

本来ならば続けて投稿できればよろしいのでしょうが、正直筆が遅れてまだ準備ができておりません。


ここで、また半月ばかり投稿が遅れますがお待ちください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 簡単確実とはいえ空気抜くってえげつないなー(^^) マーク「酸素濃度を上げたらもっと楽しい事になるのだか、命令だから仕方なく抜いた」 マーク君、戦場で先頭を走るとはくそ度胸ですね。ナオが…
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