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海賊たちの背後に

 

「人工重力を切っておけ。

 生命維持装置はそのままにしておくしかないが、重力を切っておけば動きをある程度抑えることができる」


「了解しました」


 カスミが『シュンミン』から操作して人工重力を切ったら早速向こうから口汚く文句を言ってきた。


 うるさいので無線を切ろうかと思ったが、とりあえず脅しておく。


「とにかく黙ろうか。 

 でないと次は空気を抜くよ」


 俺の脅しの効果は覿面(てきめん)ですぐに向こうは黙った。


 すると通信機を扱っていたカオリから報告が上がる。


「艦長、応援の軍隊が来ます」

 予定より2時間は早い。


「向こうは何か言ってきたか」


「いえ、こちらからの指示を求めております」


「なら、敵拠点の強襲を依頼してくれ。

 流石に俺らではあの規模は無理だ」


「軍からの返信。

 了解したとのことです」


「艦長」

 今度はカリン先輩だ。


「どうした?」


「ハイ、機関室占拠に成功。

 現在緊急シャットダウン実施中。

 指示を待つとのことです」


「こちらも片付いたし、向こうの応援に行こう。

 副長、向こうにも降伏勧告だ」


「艦長」

 急に忙しくなってきた。

 ほとんど戦闘が終わったはずなのだが、なぜかしら戦闘が終わるころになってにわかに慌ただしくなってきた。


「殿下から入電。

 あと2時間で現着予定。

 現在2隻の軍艦に護衛されながらそちらに急行中。

 先行して1隻の軍艦が向かっているがそちらの指揮を頼むとのことです」


 殿下からの無線は、応援の到着が殿下からの指示よりも早かったことで話が前後したが、どうも軍との話で、指揮権については決着しているらしい。


 しかし、一介の中尉が少なくとも佐官以上に対して指揮するとは何だろうな。 

 ありえないだろう。


 まあ、この場では俺は殿下の代理という扱いで済ませたのだろうが、俺の胃が持たない。

 正直共同して敵に当たらなくてよかった。

 もうあっちの拠点は全て軍に任せよう。


 2時間もすれば殿下も着くし、殿下がここに来る???

 おかしくないか。

 こんな危険な現場に殿下が来るなんてありえないだろう。


「艦長」

 副長のメーリカ姉さんの呼びかけで俺は現実世界に戻って来た。

 とにかく目の前の仕事に集中しよう。


「向こうも降伏を受け入れました」


「『シュンミン』を横付けして、マリアを連れて機関室へ行ってくれ。

 非常停止したエンジンを動かさないといけないしな」


「え?

 起動させても大丈夫なのですか」


「カスミ、あの船も管理下にあるんだろう」


「ハイ、先ほど処理は終わっております」


「なら一緒だ。

 どう考えても敵の方が人数は上だ。

 余計なことを考えずに、船ごと留置場にしてしまうしかないだろう。

 後は軍なり、殿下なりの判断を待つ」


「分かりました。

 エンジンが作動し次第、機動隊員たちを引き上げさせて重力を切りますね」


 2時間後に殿下のクルーザーが2隻の軍所属航宙フリゲート艦に護衛されてやってきた。


 今回応援に来てくれた軍は第一艦隊所属補給艦護衛戦隊の3隻の航宙フリゲート艦だった。


 この戦隊は訓練を兼ねて逃げている菱山一家のカーポネたちを追っている。

 ちょうどニホニウムに寄港した時に殿下からの応援の要請を聞き、こちらに回ってきたという話だ。

 殿下は王室を使ってかなり無理をして応援を要請したようで、軍としても乗り気ではなかったが、たまたま訓練中の艦隊が傍にいたこともあり、お茶を濁す意味で送ってきたと言う。


 この軍のやる気のない態度が、その後の騒乱に繋がったともいえる。


 送られてきた戦隊の司令は新任の中佐で、ほとんど実務を勉強中の身だ。

 実際に指揮を執るのがベテランの副指令であり、彼は当然たたき上げの経歴が示す通り庶民の出で、貴族社会とは接点が少ない。

 そのために貴族社会では問題の出る様な場面でも、貴族たちに忖度などできずに服務規定通りの仕事をしたのだ。


 なにが言いたいのかというと、応援に来た軍艦が乗り込んで行った小型のスペースコロニーには色々と問題ばかりの証拠が沢山眠っていた。


 先に乗り込んだ軍人たちはかなり頑強な抵抗もあり苦労していたが、殿下の護衛に付いた2隻の軍艦も加わり徐々に制圧されていった。


 応援到着から5時間後に拠点であった小型のスペースコロニーの制圧も終わった。

 ここから現場の検証と捜査が始まる。


 先にも言ったことだが、ここにはかなりやばい資料が眠っているはずだ。


 これが貴族社会に精通した軍人が指揮を執っていたらその後の状況は変わったであろう。


 先に鹵獲した航宙駆逐艦の海賊たちが発した言葉に軍にもかなり心強い後ろ盾がいるという話が予想される。

 当然奥にある拠点を占拠したら、そういったつながりを示す証拠なども見つかるだろう。


 怪しげな貴族の特にそちらと関係の強い貴族が制圧軍の指揮を執っていたら、簡単に証拠は隠滅されて、只の海賊討伐で終わったであろう。

 下手をすると海賊たちのほとんども簡単に逃がされていたかもしれない。


 何が幸いするか分からないが、この危険とも思われる現場に殿下がいることが海賊に関係する貴族や軍人にとっては不幸の始まりになってほしいと心より願うばかりだ。


 最初に応援にきた航宙フリゲート艦の艦長から戦隊司令宛てに突入の報告が入る。

 戦隊司令もまた、第一艦隊に報告を入れ、拠点の制圧に入った。


 第一艦隊内、特に軍高官の間で話題に上がった時にはすべてが遅かった。

 当然関係者は事実の隠ぺいに走る。

 現場の指揮権を軍に取り上げて捜査も軍だけで行い証拠の隠滅に入る算段をするが、既に現場では軍に応援を依頼してきた殿下が指揮を執っている。


 軍の階級で無理やり指揮権を取り上げることが事実上不可能な状況になっている。 

 軍からの出向者であるナオの階級は中尉。

 喩え中佐であっても階級をかさに着ればナオでも抗命は難しい状況だったであろうが、現場には現在のナオの直属の上司である王女殿下がいるので、証拠が隠蔽される心配がない。

 何かを言われても殿下を通してくれと一言いえば済むのだ。

 たとえどんなに無理難題を言われても、現在の上司が傍にいるので、自分で判断する必要がない。

 全てを殿下の判断に従えばよいだけなのだ。


 とにもかくにも現場に殿下がいることで、仮に、この場に第一艦隊司令長官が来ても無理強いははっきり言って無理だ。

 組織上では上下関係は微妙ともいえるが相手は王族。

 老練な貴族ならまだやりようもあるだろうが、それでも何も準備無しでは無理だっただろう。


 そう、とにかく事件の進展のテンポが速すぎてどこからも横槍が入れられない状況で、のちに判明したことだがこの時の現場でとてつもない証拠が出てきてしまったのだ。


 スペースコロニー制圧後、まだ安全が完全に確保されていない状況でも、殿下は捜査の着手を自分が連れてきた捜査員たちに命じた。

 殿下は捜査員と、機動隊員、それに手隙の保安要員をスペースコロニーに派遣して証拠の保全に入る。


 とにかくスピードが貴族たちと段違いなのだ。


 慌てた関係者たちが次々に応援の艦隊を寄こしてくる。


 突入開始から24時間後に第一艦隊所属の前衛戦隊と第三戦隊というバリバリの戦闘部隊が派遣されてきた。


 なりふり構わずに力押しで、指揮権を奪おうというのだろうが、何もかも遅い。

 派遣されてきた部隊の指揮も殿下が握ることに成功する。

 なにせ、殿下からの要請で集まった戦隊だ。


 結局色々と問題が出て来る。

 その中で知ったことだが、このコロニーの役割は臓器売買のための基地だということだった。

 かなりおぞましい証拠が次々に出て来る。

 ニホニウムやレニウム、果ては隣のアミン公国から孤児などを攫ってきては臓器を取り出して売りさばいていたということが判明した。


 その悪事を仕切っていたのが中堅の海賊集団シシリーファミリーであり、問題をさらに複雑にしているのが、出てきた証拠からかなりの高官たちがそのシシリーファミリーに加担していたことが判明したのだった。


 これを発見したのが殿下であったのはある意味王国の幸いであろう。

 問題の多い貴族が仕切っていればうやむやのうちに無かったことにされ、悪事は続いていただろう。

 だが殿下が証拠を押さえても簡単にはこの件は解決しない。

 一番の理由が国民に対して不用意に事件を公表できないということだ。

 あまりに根が深く、問題が大きい。


 殿下はある程度事実が分かるとすぐに王室監査室に連絡を取り、応援を頼んだ。


 もうここまでくると殿下でも手に余る事件だと判断したのだ。


 結局この件は国王直々に組織を立ち上げ収束に向け王室が全力で捜査することになった。


 名前の挙がった関係者はすぐに王室の管理下に置かれ逃げられない措置は取られたが、直ぐに逮捕とはならない。

 当然各自の持つ職位に付随した職責は取り上げられているが、そのまま放置された。

 いわば置物としてその場に留めた。


 陛下は十分な調査の上、問題ある貴族に対して犯した罪の軽重を問い、ほとんどが改易か強制的な引退をさせた。

 また軍人も同様で、こちらは貴族以上に神経を使って最終的にはほとんどが強制的に辺境に島流しになった。

 国民に対して公開で裁判ができなかった以上、これ以外に対処の方法が無かったということらしい。


 全てが終わったのは事件後2年の時間を要したと言う、王国始まって以来の一大スキャンダルになったが、この件を国民が知るのは、さらに多くの時間を要し、それも研究者の間だけの発表に留められた。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] これだけの大事件の隠蔽で事故死や病死する関係者が出ないとなると王家の権力が貴族に対してかなり弱いのかな? 大々的にやれなくても、ひっそりと裁くことは必要なはず。 犯罪をしても王家に裁く…
[一言] 第3王女殿下直属の神速の捜査部隊ですか… しかも艦長は孤児院上がりで何のしがらみもなく忖度も通用しない曲者の若造と… 私が悪いことしてる貴族なら頭を抱えたくなりますね(笑)
[一言] ふたを開けてみたらかなりの大手柄でした。また主人公が出世してしまう。 殿下のお遊びと思っていた諸侯は、有用性を示されかつそれが汚職などで得られる利益利権にとっては目の上のたんこぶ的な存在に…
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