おまけ:初めてナオに嫉妬するジャイーン
ドックの応接室でジャイーンは、カスミがナオのことを楽しそうに話すのを聞いて複雑な思いをしている。
また、ナオがここの社長ともかなり親しげな様子に驚いてもいた。
ジャイーンは一人焦りを感じていることを自覚している
ナオが大学に落ちてテツリーヌに振られた時から、なんで王室座乗艦の艦長にまでなったか。
社会に出てから1年と掛かっていないのにこれほどの差ができるものかと驚きとともに羨望や妬みのような感情が湧いてきている。
自分はまだ学生の身だ。
卒業したって、いきなり事業を任される筈も無く、また、自分で事業を起こすこともできない。
今の差がより一層開いていくように感じてしまった。
なんで、部下にこれほど信頼され、尊敬??されているのか。
あのナオが何故そんなことができるのか分からない。
どちらかというとあいつは人見知りする方なはずだったのに。
そんな感情が生まれて来るのをジャイーンは只々驚いていた。
ジャイーンはいくつかの点で重大な勘違いをしているのだが、心の中の声は誰も聞けない。
もし、ナオがその心の中の声を聞いたなら、直ぐにでも訂正するだろう。
まず、部下たちはナオに対して尊敬はしていない。
なにせその部下たちに絞殺されかけたくらいだから。
ただ、普通の上官と違ってよく話を聞くし、自分らをよく理解してくれるので、好感度が高いだけだ。そのことを誰も教えてくれないので、ジャイーンは本当に焦りだしていた。
ジャイーンは先月の公爵家のパーティーに随行員として中に入ることを許されたのだが、ナオのおかげで、殿下のお目通りがかなったことになる。
表現が妥当かどうかは措いておいてほしい。
要は、コネが命のような貴族社会において殿下と話ができるというだけでそれなりに力を得る。
ジャイーンも同様で、キャスベル工廠の社長は現場にいたから遠目で見ていたのだろう。
その後社内で話題になっていった。
どういう経緯で殿下と親し気に話せたのかと盛んに聞かれた。
ジャイーンは正直に幼馴染のナオが殿下の座乗艦の艦長であることと、そのナオを呼びに来た殿下に挨拶されたことを聞かれるたびに話していた。
マークの父親のコロナ専務もその話を聞いていた。
ちょうどそんな折に再び殿下がニホニウムに来たという情報を掴んだ彼は殿下の座乗艦の艦長と話をするためにジャイーンを連れて友人のドックに向かったのである。
殿下が今使っている艦はそのドックで改造されたことは知っていたが、普通ドックの社長とは言え、座乗艦の艦長とは面識などできない。
そもそも王室の座乗艦というものは、この国では第一第二の艦隊の旗艦だけで、その旗艦艦長は大佐か准将というかなりの高官である。
そんな人が解体屋の社長なんかとは面識などできないのが普通だ。
ナオたちも基本のやり取りはマキ主任のように事務員が行ったのだ。
そのか細い伝手を使おうとジャイーンを連れてドックに来て、事務員か乗組員にジャイーンから艦長宛ての伝言を頼むつもりでいたのだ。
まさか、ドックの社長とナオがあそこまで親しげだったとはコロナ専務も知らなかったようだ。
なので、今回ジャイーンは完全におまけの扱いになってしまった。
当然その扱いはジャイーン本人も知ることになるし、かなり悔しい思いもした。
実習先での仕事を終えて、ジャイーンは彼の愛人たちと会っていた。
今回は落ち込んでいたので、憂さを晴らすと云うよりも慰めてもらいたいという気持ちがあったのだろう。
お酒を飲みながら話していた。
「どうしましたか、ジャイーンさん」
「今日は何か変ですね」
「お仕事で何かありましたか」
愛人たちがジャイーンを心配して声を掛けて来る。
「今日、専務と同行してナオにあった」
ナオのことを知らないモデルなどは、大手企業の専務と同行して仕事をするなんてすごいと思ったのかそのことに感心の声を上げていた。
「え、キャスベル工廠の専務さんと同行してお仕事を。
すごいですね」
しかし、ナオのことを直接知る愛人たちは少なからず驚いていた。
「え、ナオさんってテツリーヌさんのお友達だった」
「先輩、あの時手ひどくテツリーヌ先輩が振った人ですよ。
泣きながら走っていったんでよく覚えていますよ」
ナオの先輩や後輩の二人は純粋に再会を驚いていたようだが、肝心のテツリーヌは別のことに驚いていた。
何で、軍人となったと聞いているナオが、それも大手企業の専務に直接会えるのだということを。
彼女は彼女なりに成り上がろうと必死なので、そういうコネクションについても敏感に反応する。
「え、ナオ君って軍人だったよね」
「ああ、みんなに話していなかったか。
先月俺が公爵家のパーティーで殿下にお会いしたことを」
「あれ、聞いたような気がしますね。
殿下にお声を掛けられたといっていませんでしたか」
「ああ、なぜ俺のようにパーティー参加資格の無いものが殿下に声を掛けられたかは言っていなかったな。
あの時にナオに再会していたんだよ」
「ええ~~、公爵家のパーティーに何で軍人になったナオが参加しているんですか」
これにはナオを直接知る女性たちが驚いていた。
「ああ、俺も驚いたよ。
俺が殿下に声を掛けられたのも殿下がナオを呼びに来たんだからな。
俺はそのついでに声を掛けられただけだ」
もう完全に固まる女性たち。
辛うじてテツリーヌが聞いてきた。
「なんで、殿下がナオ君を探しに来たんですか。
ジャイーンさんはその理由を聞いていますか」
「ああ、今日専務と同行したのもそのナオを紹介するためだったんだよ。
あいつは今。王宮に出向している。
あの時の殿下の説明だと広域刑事警察機構設立準備室なる組織ができて、ナオはその組織で殿下がお乗りになる座乗艦の艦長だそうだ。
胸には勲章と軍の中尉を示す階級章が付いていたな。
あいつは軍でも中尉の士官だ。
俺が学生だというのに、いったい何をやればそこまで行けるんだよ」
「でも、ナオさんが偉くなったのは先月知っていたのでしょう。
今日は何があったのですか」
「ああ、今日専務と同行して、子会社の解体屋に出向いたんだが、そこの社長は専務と友人関係だったんだ。
その社長の伝手を使用して殿下の座乗艦に連絡を取ってナオと専務を会わせる手はずだったんだが、ナオが直接ドックに来ていたんだ。
しかも、そこの社長とはかなりの仲だったんで、俺は要らなかったんだよ。
ナオは少なくともキャスベル工廠では重要人物だ。
しかし、俺は……」
「まだ、ジャイーンさんはスタートラインにも立っていませんでしょ。
焦る必要はないのでは……」
「ああ、俺もそう思う、思うが、あいつは凄い。
今日、ナオと一緒にあいつの部下も居たんで話を聞いたが、本当にナオに対して尊敬している様だった。
完全にナオは部下を自分の配下に置いている。
いったいいつそんなスキルを身に着けたんだ」
「軍隊では階級が物を言うのでは」
「俺は幼少より人を見る目を養うように言われて育った。
だから何となくだが分かるものもある。
ナオの部下はナオの階級や役職に従っている訳ではなさそうだということを。
完全に心服させている様だった。
それが俺にとってショックだった。
あいつは俺と同じ年だ。
なのに……」
ジャイーンの話を聞いたテツリーヌも急に今まで感じたことのない感情になった。
焦りのような嫉妬のような。
何で大学を落ちて先の無かった筈のナオが、順調にエリート街道を走っているジャイーンよりも出世していることに驚いていた。
その日はジャイーンを慰めながらも自身の気持ちも落ち着かせていた。
自身の盛大な勘違いでその日のジャイーンは相当に落ち込んでいた。
美人の愛人たちに慰められながらその日は過ぎて行った。
ナオがこのことを知ったら、完全に間違いについて、何を誤解して良い思いをしているんだと、リア充は盛大に爆ぜろと言ったことだろう。
人という者は見えている部分でしか判断できないから、時として盛大に勘違いをしてしまう。
今回のケースがまさにそれだ。
ナオの基本姿勢は自殺を試みた時から何ら変わっていない。
軍への入隊だって、殉職するためであり、出世には一切の欲もない。
そのために今回の様な勘違いが生まれたのだろう。
殉職までの腰掛けの職場ならできるだけ波風を立てない方が楽に生きられる。
流石にルールを大幅に逸脱して軍から放り出されるのは困りものだが、そうでない限り自身の裁量が許す限りみんなが楽なように取り図っているのだ。
これが部下から見たら、話の分かる上司で、自分たちにどんどん裁量を任せてくれる懐の大きな人に映ったのだろう。
しかも危機に際して毅然とした指揮を執る。
まさか誰一人として思い浮かばないだろう。
鹵獲したばかりの船で敵に突撃をかます作戦を取れるだろうか。
しかも自身が最後まで責任を取って、かつ、部下を生かすような配慮までしてだ。
こんなことをされれば大抵の人は心酔していく。
全ては彼の中二病から始まったことなど誰も知らないのだから。
本当にナオの場合、大幅な勘違いがそこら中にはびこり今日を作り出している。
そんなナオの正体が周りに知れたらどんな反応が返って来るか。
実際には誰もナオを正しく把握していないのでありえないことだが、もしあるならば面白いことになるだろう。
ここまで私の作品を楽しんでもらえ、うれしく思います。
最近までSFのジャンルですが、日刊、週間、月間、四半期に置いて皆様からの評価を頂き1位を貰っておりました。
また、私の作品で初めて1万ポイントの評価を頂きました。
ひとえに読者からの応援の賜物と感謝しております。
次章からはいよいよ海賊相手にナオたちが無双していく展開になります。
ただ、現在執筆が遅れており、ここまで毎日投稿しておりましたが、次章の始まりまで数日お待ちください。
それほどお待たせしないと思っております。
ご了承ください。




